AI万能でないから.

わたしは健康診断で乳腺の画像診断をしています.かつては乳がんの手術をしていたし,マンモグラフィーの講習を受けて認定を受けていますから,それなりです.講習会の認定時の成績は正診率88%でした.ランクB(普通)です.90%を超すとランクA(とっても優秀)です.
12%も見落とすのです.これが現実です.でも,大きながんは見逃しません.小さくてがんかどうか迷うものがあるのです.それをピタッと言い当てることは不可能です.がんか否かは細胞を顕微鏡で見たあとの診断です.画像診断し,「必ずがんです」というのではなく,「がんの画像としての特徴を持ったしこりは見えません」というものです.現代の医学では顕微鏡レベルの小さなものを透かしてみる技術はないのです.顕微鏡レベルと肉眼レベルの2つのものに,「がんの診断」という同じ言葉を使うので誤解が来ます.
乳がんの場合は,小さいものを見逃して翌年に大きくなって見つかっても,手術後の生存には影響がないとアメリカの多くの患者の術後をみた論文で報告されています.だから,乳がん検診は2年に一回でよいのです.
AIに話を移します.このように現在人間が画像診断をしています.その結果が一箇所で集計されて,いわゆるビッグデータになります.このビッグデータには画像と人間がくだした診断結果が収められています.ここでAIは自分で画像を読み,その特徴をピックアップし,人間の下した診断結果を知ります.そして,AIの見つけた特徴と診断の違いを計算し,その診断のちがいがすくなくなるようにAI自身の判断基準を修正していきます.これがディープラーニングです.
こうすれば,人間が診断基準を教えなくてもAI自身が繰り返すことで診断精度を高めていきます.最終的には人間より精度が高くなる・・・はずなのですが.
AIは手術できません.自分の画像診断の顕微鏡レベルでの正確な診断を得られないのです.人間の診断した結果しか参考にできません.人間ががんと疑い手術した結果を入力できますが,それは人間の目というバイアスのかかったデータです.
つまり,AI自身が患者さんを説得してAIがロボットを操作して手術して切り出すというレベルにならなければAIは必ず人間から学ばなければならないのです.
新聞のニュースサイトで現在の胃がんの画像診断の正診率が80%と書かれていました.この画像診断が胃バリウム検査か内視鏡検査かわかりませんが,わたしは低いと思います.
わたしはAIは使いますが,その危険性を知っています.なんでもAIにしたら,新人の医師はAIに頼るだけになり,自分で画像を読むという能力を培わなくなるでしょう.そんなことはに長い年月をかける意欲はないのです.こうして,20年後には人間の診断能力が下がります.今の画像診断の機械も進歩してもっと細かく見えるようになるでしょう.そのときに人間の専門家としての目が培われていなければ,AIはゴミデータをもとにして診断を学ぶことになるかもしれません.
人間が作ったもの(機械,ロボットなど)やこと(モラル,基準,法律など)に振り回されて,個人の特殊性,人間の特性を無視されることが起こります.このとき,人間は自分の周りの現実世界から切り離されます.これを哲学者のヘーゲルは「疎外」と呼びました.
AIを過信し数値的な結果だけを求めると,人間が疎外される元を作ります.多分,どこの業界も同じです.