数カ月ぶりに来た患者さん

かつては便秘を主訴に受診していたのです.「自分で作ったトマトを毎日たくさん食べていたら調子が良くなった」と言うので「困ったときに来てね」と言って定期受診をやめていたのです.
体中の筋肉を緊張させて,右膝を伸ばしたまま,杖にすがるようにしてよたよたと歩いてきます.
「知ってる通り手術の後,神経痛で右足が痛くて…」
いやいや,知らないから.わたしは便秘の薬を前任者から申し送られただけだから.
時間に沿って話すようにお願いして(勝手に話し続けるので,ときには声を大きくします)混乱するあちこちの不具合を整理しました.
要約すると手術は7年前で今回の痛みと直接関係なく,「4月から右膝と左上腕が痛くなり,整形外科で手術はできないと言われた.痛み止めを処方された.運動不足で便秘した」とのことです.
緩下剤を再び処方しました.
受診を終えて立ち上がる時に,右手を伸ばして机を支えにしようとしました.いやいや,あなたそれは無理でしょ.
ちょっと待って.
わたしが見本を見せながら,「左足を引いて踵をついて,もっと足を内側に入れて.」と指導しました.
しかし,足と言うと膝を動かし,足をひくというと踵を浮かせます.
お手本を見せながら説明しても,わたしの言葉を聞いていない!
もちろん,自分の体の声も聞いていない!
そりゃぁ,痛くなるわい.
なんとか形を作り,「はい,お辞儀して重さが左足の趾の付け根に来たらお尻を浮かせて…」
楽に立てました.
「あなたは体が悪いとか,何かが悪いと思っているけれど,体の使い方を間違えているのですよ.今のことでわかったでしょ.痛む右膝に重さがかかったら立ち上がれません.自分の体に注意を向けるようにね.薬がなくなるか,困ることが起きたら来てください」で終了.
退室する時に歩き方を修正したら,両膝をちゃんと伸ばして,杖を普通について歩いて帰りました.
患者さんが退室してから,一部始終を見ていた看護師に「自分の頭の中で作った自分のイメージに合わせて動いているから,気づかないのさ」と話しました.
すると看護師が「次回,予約しなくていいですか?」と聞きました.
「便秘だから,薬を使い果たしたらくるのでいいさ」と返しました.
「でも,今の動きの改善を見たら,先生の診察を定期的に受けたほうが良いのではないでしょうか?」
「あっ,そういう意味ね.では,君が患者さんに聞いて都合の良い時に予約入れてね」
うーん,患者さんのことを考えていて気がつく丁寧で控えめな看護師ですね(男です).