嚥下と姿勢と褥瘡

はじめに

嚥下とは口に入れた食べ物を噛み砕いて,飲み込んで食道に入れることを言います.

姿勢とはヒトの骨格の有り様を言います.

「頭が前に出ている」「おしりが出っ張っている」「反り腰になっている」「胸がかがんでいる」などのように表現されます.

褥瘡は体の一部が環境と骨との接触で圧がかかり,皮膚や皮下の脂肪,筋膜,筋肉が損傷した状態を言います.

今回は嚥下が容易にできる姿勢と褥瘡のできる姿勢について解説します.

その結果を参加者が自分の担当している患者さん,利用者さんのケアに活かすことを望みます.

知識は提供しますが,それを実践する能力は各自が毎日の修練で身につけなければなりません.

このセミナーに参加したからと言って,「明日からすぐに役立つ」ということはありません.

「明日からすぐに役立つ」と宣伝しているセミナーは眉唾ものです.

明日からすぐに実践できることは,昨日までできていたけど言葉にできなかったことです.

自分のできることを表現する言葉を教えられたときに,「明日からすぐにできる」体験をします.

でも,そんなときの技術は昨日と変わらないのです.

言葉を知っただけです.

大切なことは,昨日までの体験や技術を表現する言葉を知ること,解剖や生理学や進化学の今まで知らなかった知識を知ること,そしてそこで知った言葉を自分の日常生活,仕事で使ってみて,知識の意味=実際的体験を積み重ねて行くことです.

そうして,初めて知識を自分のものにできます.

今までやっていたことを表現する言葉と新たな知識の意味となる実践が2つのツールになります.

このツールで実践を積み重ねる(修練する)と,どんな分野でも達人になれます.

中国の賢人と言われる孔子は「学びて時にこれを習う.またよろこばしからずや」と言いました「.

学ぶ」とは新たな知識を手に入れること,「時に」とは機会を作ってということです.

「習う」とは実践を繰り返すことです.

あなたも「学び」,自分の生活や仕事で「習う」ことをおすすめします.

食餌法の進化

ヒトは哺乳類です.

哺乳類は両生類の祖先から進化しました.

両生類はさかなの祖先から進化しました.

さかなは無顎類(円口類,ヤツメウナギの仲間たち)の祖先から進化しました.

無顎類は単なる管のように動物から進化したでしょう(化石がないので断言できません).

管のような動物の食餌法

単なる管のように動物は,体全体をくねらせて移動し,先端の穴(口に相当します)から入る水とその中のプランクトンを消化したでしょう.

つまり,体全体で食べていました.

原索動物の食餌法

もっとも原始的な脊椎動物はナメクジウオとされています。


ナメクジウオの口の周りには索状の突起があり口の中に水を流し込みます。

口は食道につながっています.

口と食道をつないでいる部分を咽頭と呼びます.

水の中のプランクトンを食道の前の膜に粘りつけてから,咽頭を収縮させてエラアナから水を押し出します.

膜についたプランクトンを食道に送り込み,消化してエネルギーに変えます.

ナメクジウオは咽頭のポンプで水を吸い込み,餌を濾して食べています.

体全体と咽頭で食べています

無顎類の食餌法

無顎類はヤツメウナギとヌタウナギだけです。

無顎類には顎がありません.

口は丸い穴になっています.

 

咽頭にエラがあります.

エラのなかの骨がカゴのような構造を作っています.

無顎類はこのカゴを変形させて咽頭を膨らまして水を口から取り込みます.

丸い口には角質の歯がついています。

ヤツメウナギは、この歯を他の魚の体につきたて鱗を削り、血を吸います。

ヌタウナギは、水底のゴミや死骸から歯を使い、肉や餌になるものを削り取ります。

どちらの無顎類も口に入ったものを咽頭が広がって吸い込み、水を捨てて、食物を食道に送り込み消化します。

.注) 円口類の口についている「歯」は角質だけです.他の脊椎動物の歯とは違うものです.餌を削って口から吸い込みます.顎がないので噛めないですから.りんごを摺って食べるようなものです.

さかなの食餌法

さかなは無顎類の祖先から進化しました.

無顎類の頭蓋の一部が上顎になっています.

咽頭にあるカゴのような構造(咽頭弓と呼ばれます)の前側が下顎になりました.

上顎を上に,下顎を下に動かして口を開くことができます.

食道の前の膜はなくなり舌ができました.

舌の中には骨があります.

舌骨です.

舌骨はエラブタの骨にもつながっています.

舌骨と胴体をつないでいる筋肉が収縮すると,舌骨は尾側に引かれて,咽頭の底が下がりエラブタの骨が外側に押され口の中が広がります.

上あごの骨も前に出て口の中はさらに広がります.

こうして水を吸い込みエラで濾してプランクトンだけを食道に送り込みます.

大きな魚になると小さな魚を飲み込みます.

鳥も食べます.

餌が口から逃げ出さないように鋭い歯を持つようにもなりました.

たいていのさかなの咽頭にも歯があります.

つまり,さかなは体全体と咽頭のみでなく,顎を使い口で餌を取れるようになりました.

生存に有利になりました.

両生類の食餌法

両生類は水中に住むものと地上に住むものに進化しました.

肺呼吸をして四肢で歩くようになりました.

前肢は体を固定するように,餌をを固定することができます.

餌の捕獲に前肢を使えるようになりました.

イモリのように水中に住むものは咽頭で餌を吸い込みます.

サンショウウオやカエルのように地上で住むものは水を使って餌を獲れません.

餌となる虫たちは空気の中にいるのです.

カエルや一部のサンショウウオは舌を飛び出させるようになりました.

さかなの舌には骨が入っていますから,舌を動かすことはできません.

さかなの舌は味覚を感じる感覚器です.

両生類の舌の中には骨がありませんので柔らかく飛び出させることが可能です.

ただし,カエルの舌を飛び出させる機構は解明されていません.

つまり,両生類は,体全体と咽頭と顎だけでなく,前肢と舌という器官で,口先より遠くの餌を取ることができるようになりました.

生存に有利になりました.

爬虫類の食事法

両生類から爬虫類と哺乳類が出ました.

爬虫類は顎と舌の利用を進化させました.

強靭な顎や長い舌を持っています.

両生類の食餌法を強化したように見えます.

哺乳類の食餌法

さかな,両生類,爬虫類の下顎の骨は3つの骨からできています.

3つの骨はほぼまっすぐに並んでいます.

哺乳類になると下顎の骨は一つだけが使われるようになりました.

残りの2つは耳の中の小さな骨になり音の増幅装置になりました.

一つの骨で固くしっかりした下顎になりました.

下顎は横にも動くようになり食餌をすりつぶすのに有利になりました.

哺乳類は両生類より首が長くなりました.

体全体を動かさなくても首を曲げることで

横の餌もとることができます.

リスやネズミは両手で餌をつかめます.

猫は片手でねずみを捉えられます.

サルは手で芋を洗えます.

哺乳類は,体全体と咽頭と顎と前肢と舌だけでなく,首を使って食餌を穫れるようになりました.

生存に有利になりました.

サルの食餌法

サルは木の枝に捕まり立つようになり,前肢が上肢になりました.

指が発達し器用さがまして片手で物をつかめるようになりました.


餌を手で捕まえることができるようになりました.

他の哺乳類に比べると,体から遠いところの餌を捕まえられるようになりました.

ヒトの食事法

木の上で生き残ることの下手なサルがいました.

木の上から追いやられ地上に降りました.

足で歩かざるを得なくなり,上肢は自由に使えるようになりました.

道具を使うようになり,そのためか脳が発達しました.

道具を使い,餌を取るようになりました.

ハンドルを握り市場に買い物に行き,箸やスプーンを使って食事します.

食事方法の進化から見えること

これが「食餌方法の進化」です.

このプロセスを眺めると,ヒトの食事の基礎が理解できるでしょう.

さらに,姿勢という骨格の組み立て方を理解できたら,鬼に金棒,ナイフにフォーク,ご飯に味噌汁です.

これ以上書くのは飽きましたので,当日セミナーに参加してください.