いい話

いい話

ある日,特別養護老人ホームに往診に行きました.車いすで診察室に連れてこられたのは,アルツハイマー病を患うかたでした.体は小刻みに震えています.看護師は,全身の筋力が低下し,頭も支えていられなくなったと言います.
わたしはすぐに,「ばっかもん.この車いすがあっていない.自分の力で座っていることもできなくなった人にこんな大きさの車いすでは支援にならん.頭のサポートもなってない」としかりました.体位のサポートの仕方と考え方を指導しました.ケアマネージャーを呼び,すぐに身体障害者認定の手続きをはじめました.リハビリテーションの指示も出し,PTのMくんに頼みました.
寮母さんも座位姿勢の支援をしてくれるようになりました.患者さんによると,もっとも支援してくれたのはケアマネージャでした.施設内でその方を見つけると,「頭を高くして背中を長くしてね」と声をかけてくれているとのことです.リハビリテーションにも,楽しそうに行っています.患者さんは「今までどんな医者もこんなにしてくれなかった」と言います.多くの医者はリハビリテーションや介助の有用性を知らないのです.
障害の認定がおりて車いすやさんを呼んで採寸して車いすの製作に入りました.注文が混んでいるうえに大雨の影響でしばらく待たされます.
昨日,PTのMくんが報告に来ました.「あの方は動きが改善して,今では歩行器で100メートル歩けます.でも,施設の人に聞くと,この病院にあるような低い歩行器がないと言います.現在,車いすの製作中ですから,ここで歩行器の申請を上げても却下されます(歩けないからとして車いすを申請したからね).どうしましょう?」
リハビリや姿勢の改善が効果を出して歩く能力が高まったのでした.ありがたいことです.
Mくんに言いました.
「あの施設は他の入所者のためにも,使いやすい歩行器,背の低い人にも使える歩行器を買わなければなりません.でも,私はあの施設の管理者ではありません.わたしがあの施設に『買え』と命ずることもできません.わたしから『買うことを勧める』と言うこともできます.しかし,今,Mくんはこの患者さんに歩行器が必要だと気づいたのですよね.プロとしての意見ですよね.ですから,わたしは君にあそこの施設を見に行って,あの患者さんの環境を見て,常備している歩行器を見て,施設長に『この患者さんの歩行の改善には,別の歩行器が必要だ』と言ってほしい.わたしも施設長に言う.そうすれば,事務管理者の施設長ではあっても,そのような設備が臨床では必要だと認識するかもしれない.しないかもしれないが,言わなければ変わらない.ぜひ,リハビリの専門家として意見を言ってほしい」と言いました.
今日,往診日でした.往診の前にリハビリ室によると,Mくんはいませんでしたが,主任が「Mくんが昨日,施設ケアマネと話していました」と言いました.施設に行くと玄関でケアマネに会いました.まずは施設にある歩行器を持っていってMくんに見てもらうことになったそうです.なるほど.
施設長に購入を勧めに行こうとすると,ケアマネが「施設長は必要な歩行器を2・3台購入することで購入の書類を書いています」と言いました.えーっ,仕事が早い!!!
他職種連携とか協働とか言われます.わたしはそんな言葉は嫌いです.専門職が専門職としての仕事をまっとうすること.自分の専門領域で解決できなければ,専門家としての意見を付けて他分野に連絡すること.そうすれば,いちいち会議を開いたり,大勢で回診したりしなくても良いのです.
えっ,わたしの役割? 患者さんの健康をはかることさ(あっ,かっこよすぎ).どうするかって言うと・・・
杵蔵ネオでもICFでも,セルフケアできること,これが健康です.そして,介助者も医者も看護師もリハ職もみんな,患者さんの環境と見ています.そして,環境が良くなれば患者さんはセルフケアしやすくなります.わたしの仕事は,「環境の整備」です.看護師危なし!!!