見返り美人




 菱川師宣は浮世絵の名人です。代表作は左に載せた「見返り美人」。
 日本の記念切手発売の最初の図柄に選ばれました。

  なぜ、この女性が「美人」なのか?

 顔は長いし、胴も長いし、和服の色気と言われる「襟元から首筋」が見えているわけでもありません。しかし、歴史を経ても、世界的に高い評価を得ているというのは、多くの人がこの絵の中に、「なにかを感じる」からです。

 左のアニメーションの中に水色で、頭、胸郭、骨盤、上肢、下肢の位置を示しました。

 水色の体の中に首から胸、骨盤を支える背骨(脊椎と呼びます)のラインを赤で描きました。下肢のラインも加えてあります。

 この女性の頭は首から、胸、ウエスト、骨盤へ流れるような脊椎のラインを作っています。さらに、その脊椎の動きを楽に作るために、両下肢の股関節、膝が協力して緩く曲がっています。

 この立ち姿は、とても楽な感じです。

 多くの人は、自分の首から始まる脊椎の使い方を知りません。

 背骨は頭の先から、手の指先を含めて、足の先まで、「全体」として機能します。

 体の感覚で背骨の使い方の体験をした人はこのことを理解できるでしょう。理解できない人は、もう一度体の感覚のページに戻って、静かにゆっくりと体験してください。ここが理解できないと、「感じる解剖」は役に立ちません。

 この女性は自然に立っています。誰かから声をかけられて振り向いたのでしょう。しかし、何かを「見よう」として振り向いたと言うよりは、自分を包む環境全体から何らかの刺激を受けて、自分を包む全体の行動の一部として、自分が振り向いたという感じです。

 わかりずらい表現ですね。「全体の一部」としてのインタラクションと言いたいのです。全体論システム理論の応用です。

 美しい姿と感じるのは、形によってではなく、その人と周囲(環境)との関わり方に、無理がないからです。そのような体の使い方をしていることが、この絵で感じられるから、この女性は歴史、文化を越えて「美人」と評価されます。