B 写真家

 ある日、しゃがんでから立ち上がるように言われました。

 そう言われたとき、何をするのかわからず、ほとんど化石のように固まってしまいました。

 そんなことはここ数年やったことがありませんでした。これはひっくり返るぞと思いました。

 さもなければ、かっこうわるく四つんばいになって、はい上がることになるだろうと思いました。

 しかし、歯を食いしばり、息を止めて、・・・できるだけ速くやりました。

 そんなに深くしゃがみはしませんでした。

 しかし、ひっくり返りもせずにしゃがんで立ち上がることができました。

 それで何が起こったのでしょう?


 私たちは何度も繰り返しました。

 しゃがむたびに少しづつ深くしゃがみ、ゆっくりやるようにしてみました。

 不思議なことに、ゆっくりやればやるほど、楽になめらかにできるのです。

 だんだんと自分の上体のバランスと、股関節と膝の曲がり具合、太ももの筋肉の緊張が変わっていくのを感じました。

 おそるおそるでしたし、痛みを感じましたが、なんとわくわくしたことでしょう。

 完全にしゃがみ込んで、そこから立ち上がるなんて、今までできないと「頭」で思っていたことです。

 「頭」の言うことに耳を貸さず、ただ体全体のできることをやってみるまでは、まったくできなかったことです。

 後になると、ひざまづいて正座もできるようになりました。

 そんなことは、それまでただの苦痛でしかないと思っていたのにです。


 多くの実験をした後で、わかってきました。

 それまでわたしが固かったのは、「恐れ」に締め付けられていた筋肉のためでした。

 その締め付けられた筋肉が、呼吸と循環を次々と締め付けていったのです。

 ひっくり返る恐怖、痛みの恐怖、失敗とかっこうわるさへの恐怖、これらの恐怖が、本来なら動きを与えてくれるはずの筋肉をすべてきつく締め付けていたのです。

 これらの締め付けを捨てて、健康であることの楽しさを満喫しながら、自由に動くことができたあの実験のときに、自分の筋肉で悟ることができました。