実践の観察

1  80歳代の女性です。自分で動けないので、在宅で娘さんが世話していました。

 訪問看護師から、依頼されて往診してみると、右の大転子のところに直径5センチほどの褥瘡ができていました。

 入院して、創部をいじめないようにして、湿潤環境を維持します。栄養は、褥瘡だからと特に基準を設けません。
2  2日後には、真ん中の変質した部分の辺縁が壊死して表皮が脱落を始めていました。

 写真に見えている下のほうでは、毛孔が見えています。ということは、ここは真皮が見えているということです。

 真ん中はまだ表皮は残されています。
3  20日目です。中央部の皮膚の辺縁は完全に壊死になり、真ん中だけが取り残されています。

 このように壊死した皮膚をエスカーescharと呼びます。

 完全に壊死になった辺縁では組織は破壊されて失われています。周囲の皮下組織から肉芽組織ができてきています。
4  36日目。中央にあったエスカーは線維性の組織だけになります。紐のような組織で創の底とつながっています。

 このようにエスカーと創をつないでいる紐のような線維状の壊死物質をスラフsloughと呼びます。

5  4と同じ時の写真です。
エスカーが取れて、スラフだけになりました。
スラフの下にも生き生きとした肉芽組織があります。
創縁は色の良い肉芽が盛り上がってきています。
6  80日目。肉芽が収縮して行くにつれて、周囲の皮膚を引っ張ってきて、創は全体的に収縮します。

 あとは唾をつけておいても治ります。
 

 特に珍しくもない症例です。どこの病院でも経験しているでしょう。治癒過程も普通です。

 次のページからは、この症例の創をよく観察して考察してみましょう。