辞書の違い

 「太陽」という記号の伝達には、問題はありません。行きも帰りも「太陽」という記号はまったく同じです。

 原因は辞書の違いにあります。

 ● の場合には、AとBは同じ辞書を使っていますから、同じ「言葉」には同じ「意味」が書いてあります。

 ところが、● の場合は辞書が違います。

 辞書Aと辞書Bに書いている「意味」が違います。

 「同じ言葉」が伝わっても、「同じ意味」は伝わりません。



 「言葉」に「意味」はありません。「意味」は相手の中で作られます。

 相手の辞書の中にない「意味」は伝わりません。

 記号には伝達作用と意味作用があります。

 伝達作用は「外側の世界」の問題ですが、意味作用は「内側の世界」の問題です。

 AとBは「外側の世界」を共有しますが、AとBの「内側の世界」はまったく独立しています。

 ここで、重要なことがわかります。

「言葉によるコミュニケーションだけ」では     伝わらないのが自然です。

 伝わるだけでも幸運です。

 コミュニケーションできないこと、ディスコミュニケーションが問題にされます。

 しかし、ディスコミュニケーションは当たり前なのです。

 言葉や記号でコミュニケーションできていると、思っていることが幻想なのです。

 コミュニケーションで「意味」がそのまま伝わったらとても幸運です。

 そのときには「共通の辞書」を持っていたからです。