「自己実現」の定義の修正2


 最初に書いたとおり、マズローは「成長期の人間」については、フロイトのような病的な人を対象とした精神分析では理解できないことを感じ、人間性心理学を樹立しました。

 マズローは人間の本質は善であると考えました。

 成長に向かうという良い性質が備わっていると見ました。

 マズローは人間が忘れられ、疎外されているアメリカの物質、技術万能主義に危機を感じていました。

 そのころ、ヨーロッパで広がった哲学の実存主義の影響を受け、東洋哲学から道教などの全体主義を取り入れました。

 また、マズローは、自分の本の前書きに一般意味論の影響を受けたことを書いています。

 マズロー自身は明示していませんが、全体論を取り入れるということは、システムという考えを取り入れることでした。

 ですから、マズローの心理学は、人間と環境をシステムとして考えると理解しやすくなります。

 マズローが基本的欲求としたものは環境とのインタラクションです。

 4つの基本的欲求は人間と環境のシステムの円滑な行動を支えます。ですから、充足されないと「動機」となって新たな行動を起こします。

 この4つの基本的欲求が満たされてもなおかつ自ら行動したいという欲求があるといいます。これを「自己実現の欲求」と呼びました。

 基本的欲求が「欠乏を補うための欲求」であるのに対し、自己実現の欲求は「さらに上を目指す成長欲求」であるとマズローは言います。

 「自己実現」という言葉を最初に使ったのはマズローではありません。ゴールドシュタインという心理学者が使いました。

 マズローはそれを流用したと「人間性の心理学」に書いています。

 さらに、マズローは「自己実現」をゴールドシュタインの使った意味よりも限定したものにしたと書いています。

 マズローは「自己実現」という言葉に言及するとき、しばしば、「自己実現したと私が見た人では、・・・である」と書いています。

 つまり、最初はマズロー自身、「自己実現」を体験せずに言葉として定義したことになります。

 マズロー自身が経験していないものを知るために、「この人は自己実現した」と思った人々を観察し、共通する特質を列挙したのです。