2005/05/26 東京の慈恵医大第3病院で「フェルデンクライスメソッドとキネステティクスの褥瘡ケアへの応用」というセミナーをしました。
フェルデンクライス・ジャパンのかさみ康子さんに、フェルデンクライス・メソッドのATM(Awareness Through Movement)を70分やっていただき、その後、わたしがキネステティクスの体験的紹介を50分しました。
これは2005年8月に行なわれる第7回日本褥瘡学会のプレコングレスセミナーの予行演習をかねて、行ないました。
今回の褥瘡学会のテーマは、「褥瘡医療の基本にかえる」です。
会長は慈恵医大第3病院外科の穴澤教授です。
このテーマが発表されたときに、わたしは穴澤会長にメールしました。
「基本にかえる」をテーマにするのでしたら、理論や実験を重視した講演より、実践と体験を重視したセミナーを行なってはどうでしょうか?」
穴澤会長はすぐに返事をくださいました。
「どんなセミナーを考えているのかな?」
「わたしは自分の体験や今の診療からキネステティクやフェルデンクライス・メソッドの考え方で、患者さんの体が環境へ適応する力を高めるような支援の可能性を提示するのがよいと思います。」
「きみがプランナーになってやりなさい。」と返事が来ました。
えーっ、いいの!?穴澤会長はわたしが実際にどんなことをしているのかを体験したことも、見たこともないのですよ。
ちょっと、会長。大胆ではありませんか?
と思いましたが・・・、自分が良いと感じるものを紹介して悪いことはないでしょう。
いただいた機会は楽しませていただきます。
さっそく、かさみさんにメールをすると、「フェルデンクライス・メソッドを多くの人に知ってもらえるのですから、喜んでやりましょう」と返事が来ました。
東京に飛び、会場の床の状態を確認しました。フェルデンクライス・メソッドもキネステティクも床の上で実体験するからです。
床にそのまま寝たりすると、参加者から苦情が来るでしょうから、マットレスを販売している会社の人でキネステティクを理解してくれる人にメールをして、協力を依頼しました。
今まで学会の展示で見かけるマットレスは、接触圧を下げることを目的に開発されていました。展示会場で説明していた人に、さんざん文句を言ってきたのです。
「動けないから褥瘡ができる。その人達に軟らかいマットレスを与えたら、ますます動けなくなる。
褥瘡はできなくなるだろうが、その患者さんは動くこともできなくなる。」
こんなことを言われたら、ムッとするでしょう。わかっているけど、わたしはそう思っているから、言ってきたのです。(だから、たいていの人に嫌われる。)
各社の中で、オムニ社の佐々木さんと、パラマウント・ベッドの高橋さんは、キネステティクの考え方を理解してくれました。
会社に稟議して資金提供とシーツなどの貸与で協力していただけることとなりました。
ありがとうございます。
わたしは売り上げに貢献できませんが、佐々木さんと高橋さんが病気したときには、足くらいさすりに行きます。
穴澤会長から、慈恵医大第3病院の褥瘡対策委員会の委員を対象に一回やって欲しいとメールが来ました。
このようにして、日本で初めての「フェルデンクライス・メソッドとキネステティクの褥瘡ケアへの応用」というセミナーが開かれたのでした。
かさみさんのフェルデンクライス・メソッドのレッスンを何度も受けています。
また、「キネステティクスのことを教えて欲しい」とわたしのところに言って来るナースにも、「フェルデンクライス・メソッドを受けると良い学習になります」と言って紹介しています。
実はこの「業界」、つまり医療とか看護、介助といわれる業界の人には、「助けてあげなくっちゃ」という「思い」が強くて、「感覚」を押しつぶしている人が多いのです。ですから、わたしではとても「良い刺激」を与えられない。
そして、かさみさんに「いつも、ごつい強者(つわもの)ばかりで、すみません」と言っています。
しかし、かさみさんは「えっ、そうですか?みなさん、素直に良い学習をしていきますよ」と言うのです。
おかしいな?わたしにはいつも手強い抵抗を示すのに・・・?
あるとき、某大学の看護学部の助教授から、メールが来ました。
「かさみさんのところに行ってきたら、さあサンにいつも叱られていた自分の緊張がわかりました。」
ああ、そうかい。わたしの言うことなんか信用していなかったのね!!!
今回のセミナーの良いところは、絶対に失敗のないことです。
なんと言っても、「本邦初」ですから、比較の対象がない。
何が成功で何が失敗か判定のしようがない。
だから、失敗はない。ははは、気楽なもんじゃ。
気楽ではありますが、やることはちゃんとやる。
かさみさんには、「ATMで体の半分だけ緊張を低下させてください。
その後、わたしがキネステティクスの考え方でお互いの体に触れ、反対側の緊張も低下することを体験させたいと思います。」
すばらしいアイディアでしょう!こんな体験セミナーは今まで、日本では行なわれていません。
ただ、問題はフェルデンクライス・メソッドのATMに70分、キネステティクスに50分という時間制限です。
ATMでは、小さな動きで「気づき」のチャンスを与え、2−3分休憩して体の変化をチェックします。70分ですと、その時間が少なくなります。
また、キネステティクスは、接触と動きがコミュニケーションという考え方をしますから、参加者に手取り足取り教える方が効果的です。
文字通り、「手が足りない。」
というわけで、大阪の小原さんが休みを取って、東京まで手伝いに来てくれました。
かくして、日本で歴史上初めてのフェルデンクライス・メソッドとキネステティクの組み合わせのセミナーが開かれました。
かさみさんが70分という短い時間で、参加者の体の半分の緊張を低下させた後、わたしがキネステティクの体験をさせることになりました。
穴澤会長はセミナーの前に、笑いながら「今日は百ン十キロという教室員を用意してあるから」と言いました。
それで、ついそのドクターを動かして、仰臥位から側臥位、そこから座位にしたり、骨盤の水平移動を見せたりしてしまいました。
「はっ、いかん。わたしは参加者同士で、緊張を低下させるような触れ方、介助の仕方を体験させるはずだった」と気がついたときには、もう遅し。
まぁ、いいか。みんな、驚いているし・・・。というわけで、予定とは違う方向に進みましたが、教育は伝えたい人と参加者のその場の流れでできるものですから、何とでもなります。
参加者は各自がいろいろな体験をしたと思います。各自が感じたことは、そのまますぐに伝わりません。
ですから、何が伝わったかは、参加した人たちの今後の行動、つまり自分の動き方、患者さんへの触れ方でわかってくるでしょう。
素直に言われたことを行ない、自分の体の声を聞く人は良い学習をしたようです。学会の事務局をしている三浦ドクターは、「いやぁ、驚いた。これは大切なことだよ。医療というよりもその前の問題に関係しているよ」と感心していました。ありがとうございます。
セミナーの後は、褥瘡委員の人とビールをいただきながら、お話ししました。
ごちそうさまでした。
お話と言うより、、わたしがしゃべりまくっていたかもしれません。
その後は、第三外科の医局員、研修医の人たちと話したり、実演したりしていました。
午前1時30分をすぎましたから、「それでは、ホテルに戻ります」と言って、バッグを置いた部屋に入ろうとすると、鍵がかかっている。
ありゃあ、鍵を持った人は帰っちゃった。
明日の飛行機のチケットは鞄の中。
さらに乗る飛行機の時間も忘れていました。
翌朝7時に再び、慈恵医大第3病院に出勤。
7時半のカンファレンスのために出てきた穴澤教授に、「あれっ、澤口君!?どうしたんだ?ここに泊まったのか?」
「そうですよ。というのは嘘で、教授室に置いたバックの中に飛行機のチケットがあるのです」
というわけで、楽しい思いをして返ってきたセミナーでした。ありがとうございました。
あれっ、セミナーの内容について何にも書いてない!
まぁ、いいか、書いても伝わるものでなし。
何事も体験で理解できることがあります(意味不明だ)。
このエッセイは、このようにして訳のわからないままに終わることにしました。