四肢麻痺の人が立つのを手伝う

 VIv-Arte のここのページに、第5頸椎以下の脊髄損傷で四肢麻痺となったホッファー氏の投稿が載っています。

 ボランティアとともにトレーニングを受けて、立ち上がった写真が載っています。


 写真を見ただけで、まねしてはいけません。

 自分が何をしているのかを、理解しないで行動するのは愚かなことです。


 

 「6つの主概念は、動きで困ったときに分析するためのツールです」と、キネステティクの創始者のフランク・ハッチはいいました。

 ホッファー氏の例を元に、四肢麻痺の人が立ち上がるときの問題について考えてみましょう。

 ここまでは、簡単な立ち上がりについて、大概念の「機能から見た解剖」の中の小概念「マスとツナギ」の中の「重さ」を中心に解説してきました。

 ここでは、6つの大概念すべてを吟味してみます。


機能から見た解剖

 「立っている」には、両下肢の上に、骨盤、胸郭、頭の3つのマスが積み重ねられなければなりません。

 それらのマスをつなぐツナギである股関節、ウエスト、首に適度の緊張が必要です。

 ホッファー氏には両股関節とウエストの緊張がありません。

 両股関節とウエストに挟まれる骨盤が後ろに行かないように、後方から骨盤を前に押してくれる人が必要です。

 また、骨盤から上の体を両下肢のマスが支えますから、立ったときに膝が折れないように、膝を支える人が必要になります。

インタラクション

 ホッファー氏の胸郭から下の体の動きの感覚はありません。 

 しかし、ホッファー氏は話すこと聞くことはできますから、ホッファー氏と介助者は動きについて言葉でインタラクションをしなければなりません。

 介助する人はお互いを「動きの感覚」でインタラクションしてコントロールしなければなりません。

人の動き

 できれば、スパイラルに立ち上がりたいところです。

 しかし、インタラクションの点からみると、パラレルな立ち方のほうが簡単です。



 ホッファー氏は電動車椅子のコントロールは何とかできます。

 立ち上がるときには、介助者が上肢に「引き」の力を伝えて、胸郭を上に上げることになります。

 上肢が胸郭を引くように手伝うには、両脇を介助者が支えて立ち上がるのが楽でしょう。

人の機能

 立ち上がるのは、「移動」です。

 基本体位の概念では、座位から立位への体位変換です。

 体位変換のはしごを登るには、座位、四つんばい、片膝立ち、片足立ち、両足立ちです。

 これは座位から立ち上がるプロセスで、どこを介助するかというときの理解に役立ちます。

環境

 立ち上がる練習をするなら、まずベッドという環境から立ち上がるのがよいでしょう。

 そのあとで、床という環境から立ち上がれるでしょう。

 大切なのは、ホッファー氏を支援してくれる介助者のボランティアも「環境」であることです。

 つまり、介助者の教育が環境の整備になります。


 「写真を見ただけでやるな」と書いた理由が、おわかりいただけたでしょうか?

 写真で見えるのは、「機能から見た解剖」の概念くらいです。

 「何が起こっているか」を感じ、理解していないと危ないのです。


 四肢麻痺の人が立つのを手伝うのは、「持ち上げる」のではありません。

 「立ちたい」という意志を行動に移すために、足りないものを手伝うのです。

 それが、膝のコントロール、ウエストのコントロール、両脇の筋力の代行という形になっています。

 けっして、形だけをまねして、「接触と動きがコミュニケーション」であることを忘れてはいけません。


 ちなみに、4人で介助するのはとても難しいです。

 なぜなら、感覚の麻痺した被介助者を含めて5人が、被介助者が立ち上がるときに接触と動きで同時性双方向性インタラクションをしながら動かなければならないからです。

 当然時間もかかります。

 キネステティクの6つの概念は「動きに困ったときの分析に役立つツール」です。