ボディメカニクスや人間工学では、「腰を屈めて重心を下げて、荷物を持つ」ことが勧められます。

 しかし、人間は「重心」を感じることはできません。

 感じるのは自分の体の筋肉の緊張や重さです。

 「自分の体と荷物の重さが足の裏で感じられる」ときには、安定しています。

 それを外側から物理学で観察すると、「重心が両足で作られる基底面の中にある」と表現できます。

 また、ハムストリングの緊張を感じることで、どんな姿勢でも股関節と膝の適度な曲がり具合を感じ取ることができます。

 このように感じながら体を気持ちよく使うと、膝と股関節が曲がる結果として外見的にお尻が下がります。

 これを外側から物理学で観察すると、「腰と膝を曲げて重心をできるだけ低くする」と表現されます。

 しかし、ここで理解してほしいのは、「感じる」ことが先であることです。

 ハムストリングの緊張を感じ、背中の緊張を感じ、足の裏にかかる重さを感じることで、自分の体を安全に楽に使えます。



 多くの人が、ボディメカニクスや人間工学を信仰しています。

 しかし、どんなに物理学的方法で分析しようとも、自分が感じられないものは使えません。

 私たちが毎日の生活の中で使っているものは、物理学ではありません。

 「感覚」です。

 物理学は日常生活の一部を切り取って抽象化したものです。

 ですから、問題を抱えたときに、そのエッセンスだけを抜き出して抽象化して考察し、対策を探るのにはよいかもしれません。

 しかし、「重心を下げる」とか、「基底面にのる」と理解しても解決に結びつきません。

 最終的な問題解決のためには、必ず実際に「感じる」ことが必要です。


 科学と称する多くのものが、事実を解釈して「解説」をします。

 その「解説」を読んだり聞いたりして、「なるほど」と感心してすぐに信用する人がいます。

 そこで飛び込まずに、自分の感覚で確かめてみることが必要です。

 このサイトに書いてあることも、そのまま鵜呑みにしたり信仰したりしてはいけません。

 すべての人が同じように感じることは保証されません。

 かならず、自分の感覚で確かめてください。

 自分の感覚と違うことが書いてあったら、できることは2つあります。

 「自分の感覚を磨くこと」と「現在の自分の感覚でより深く感じてみること」です。

 前者は現実を把握するツールとしての感覚の性能を高めようとすること、後者は「ここに書いてある表現ではない自分独自の表現を探ること」です。