地図の地図を作ることができる

 言葉で、言葉を定義することができます。


 たとえば、「紫とは青と赤を混ぜた色である」、「犬は動物の一種である」、「appleはリンゴのことである」というように言葉を言葉で定義できます。

 あらかじめ赤、青、色という言葉が示すものを知っていなければ、「紫は赤と青を混ぜた色である」という文章を理解できません。

 つまり、「紫」を理解できません。

 「紫は赤と青を混ぜた色である」という文章から、知ったことは、「紫そのもの」ではなく、「赤と青を混ぜた色」には「紫」という「名前」がついているということです。

 言葉で言葉を定義したときには、実体ではなく、「名前」を知るだけです。

 ですから、言葉で言葉を定義していくことを重ねると、実体のないものができあがることがあります。

 「ドラゴンとは爪、角、翼を持ち、空を飛ぶ生き物である」という文章は、「ドラゴン」という言葉を言葉で定義しています。

 しかし、文章があることがドラゴンが実在する証明にはなりません。

 「火のないところに煙は立たない」のですが、「実体のないところに名前はできる」のです。

 「言葉」は抽象化するという作用を持つと同時に、実体のないものを作りうる危険性を持っています。

 この特性を「地図の地図を作る」と表現しました。

 言葉が「地図の地図を作る」ことを理解して使うことが大切です。

 言葉の使用には注意しなければなりません。


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