小さい体位変換へのヒント

 どうでしたか?

 大腿を内側や外側にちょっと転がすだけで、仙骨にかかる力は変わります。

 そして、股関節が曲がれば、骨盤と大転子の関係は変わります。

 ここに再掲したような30度側臥位にこだわる必要は何もないのです。

 「30度側臥位はよい」かもしれません。

 しかし、「側臥位は30度にしなければならない」のではありません。

 30度にすれば、仙骨にかかる力は減ります。

 でも、30度にする前にすでに力は充分に減っているかもしれません。

 また、30度側臥位にしても、ケアする人がケアされている人にかかる力を感じなければ、おかしな力が加わっているかもしれません。
 

 角度、酸素分圧、圧力は物理量です。

 これは人間が感じる量ではありません。

 「筋肉に重さをかけて、圧力を減らす。そして、組織の酸素分圧を増やす」という考え方の中に、人間の感じられる量はありません。

 つまり、このような指導をすることは、人間にできないことを求めていることです。

 「私にはわからない。測定器を持ってきて」という人間をつくるだけになります。

 このような事態を自己疎外(Self-alienation)と呼びます。

 このような指導では、いつまでも望んだものは手に入りません。


 物理量の測定は、自分で感じたことを飾る、判断の補助です。

 大切なものは、実践の中で、試してプロセスや結果を感じることです。

 結局、原点に戻るのです。

 人間は感じることで自分の行動をフィードバック・コントロールできます

 人のケアをする人は、自分の手で相手に触れて、その体にかかっている力を感じることで、人間のケアを上手にできます。

 器具を使って、「えいっ、やっ」と動かしながら、2時間ごとに30度側臥位に変えても、人間のケアにはなりません。

 先のページの実験で感じたことを元にすれば、30度以下の小さい体位変換でも充分かもしれません。

 2時間は長すぎるでしょう。

 「もっと短い時間でこまめに軽く小さく体位変換する」ことが、実践で試されていくことが望ましいと思います。

 実践で生まれた疑問に、仮説を立てて、実践で検証することが科学ですからね(「科学とは何か?」を参照。

 もちろん、ケアする人の「感覚」をトレーニングすることが必要です。

 物言わぬ人も、「鈍感なやつにさわられたくない」と思っているかもしれません。

 そんなふうに思うのは、わたし一人かもしれませんが、少なくともわたしが感じたら、そう思うのです。

 
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