キネステティク・クラシック
 2002年に「かかってキネステティク」という本を書いて,日本にキネステティクを紹介しました.創始者のフランクハッチのドイツ語の本を翻訳し出版しました.
その後,フランク・ハッチを日本に呼んでキネステティクを教育してもらいました.

フランクは来日当初,「キネステティクは動きの言語化だ.動きは文化から影響を受ける.だから,キネステティクも日本の文化に合わせて変えていかなければならない」と言っていました.その通りです.「言語化」ですから,日本に広めるには,日本の文化,日本語に合わせて教え方も用語も変えていかなければならないのです.

 当時はそんなにはっきり理解していませんでした.しかし,2015年にフランクとレニーの会社MHIがケア・プログレス・ジャパン社(CPJ)との契約を破棄し,今後の日本でのキネステティク教育が宙ぶらりんになったときには,理解していました.
 「日本の文化,日本の言葉に合わせなければキネステティクの教育は進まない!!!

 フランクは日本語を勉強しましたが,相方のレニーは全く勉強せず,片言の日本語も話しませんでした.日本の文化,生活習慣を認めませんでした.受講者に彼らの文化の言葉で話し,彼らの文化の動きを理解させようとしていました.これでは,日本の文化で育った日本人には教育できないのでした.

 わたしはキネステティクの本やフランクたちのテキスト,ワークブックの翻訳でキネステティクの内容を日本語に直すことの困難さを痛感していました.キネステティクの内容のみならず,文化の翻訳をしなければならないのです.

 CPJの中本さんは,キネステティクの教育をするために,会社を作りキネステティクを日本に広めようと努めていました.2015年にはレニーたちに言われて日本キネステティク普及協会(NKA)を作っていました.キネステティクを学習した人,学習したい人の支援組織です.社会的に認められる組織にするため,社団法人として設立しました.しかし,レニーは「そんなことは頼んでいない.勝手に作った」と非難しました.そして,MHIが来日しないことになりました.

 NKAはキネステティクを学習したい人を支援するために,NKAとしてキネステティクを教育することにしました.

 キネステティクは「動きの言語化」です.キネステティクの6つの概念は「動きの言語化のツール」です.このような概念は商標登録することも実用新案登録することも特許もとれません.概念=考え方に所有権は生じないのです.これは日本の法律でもドイツの法律でも同じです.

 「人間の動きについての知識を勝手に教えちゃいかん」とはいえないのです.人間の動きについては,創始者じゃなくても自分で気づく人はいるのですから.
ひょっとしたら,創始者よりも詳しいことまで気づく人がいるかもしれない.その人が気づいたことに権利をつけられたらMHIのキネステティクも困るでしょう.

 権利が生じるのは,「教育に使うテキスト」の著作権,「ベーシックコース,アドバンスコース,認定プラクティショナーという段階をわけだ教育システムの呼称とそれにつけたロゴ」の商標登録です.

 そこで,NKAの教育は「キネステティク・クラシック」としました.MHIの「キネステティク」は商標登録されていますから,NKAでは使いません.「キネステティク」は一般名詞ですから,誰でも使えます.「キネステティク・クラシック」はNKAの教育システムです.

 内容も原点に戻しました.つまり,「動きの言語化を教える」ことにしました.

 かつてのようにドイツで教えられたものをそのまま翻訳するのではなく,既存の日本の文化の中で使われる表現を取り入れて,現代の科学に適合する表現にしました.この作業はいつも続けています.クラシックだから,古いことを教えると思われるでしょう.しかし,NKAで使っているクラシックの意味は「もともとの目標を確認する」という意味です.「日本の中で広めやすい日本語による日本人のキネステティク教育」キネステティク・クラシックの内容です.

 従来のキネステティク教育との違いを具体的に書きます.

 まず,教師という呼称をやめました.日本語で言われる教師とは何らかの知識を与える人をさします.キネステティク・クラシックは「本人が自ら気づける可能性を提供し,学習の支援をする」ことですから,「学習者の学習を促進する人」という意味でファシリテータと呼びます.教師は6つの概念すべてを時間内に教えなければならないのではなく,学習したいと望む人が学習できるチャンスを提供するのです.参加者が学習したいと望む分野を見て取って,そこに刺激を与えれば学習者はそのときできる最大の学習をします.決まったものを提供する教師より,柔軟な能力,多くの人とわかり合えるコミュニケーション能力が求められます.ですから,このようなことに向いていない方はファシリテータを目指さないように忠告いたします.
 NKAの教育は学習環境の整備です.

 パーソナルレベル,サポーターレベルでは,体験から言葉の意味を学習すればよいのですが,ファシリテータは,参加者が学習できる事柄について,熟知している必要があります.他の分野の科学にも使える言葉の使い方を知っていることが役立ちます.ですから,ファシリテータには,パーソナルレベル,サポーターレベルには必要ないけど,知っているととても役立つ科学的知識や知見を提供します.

 ファシリテータに教育する内容では,まず「機能からみた解剖」に違いがあります.
 今までのキネステティクの「前面と後面」「最上端と最下端(からだの上と下)」などのキネステティク用語は,現代の人体解剖学とは異なります.これは医学系の人たちにはときにはまったく受け入れがたいことになります.キネステティクを科学的にするには,多くの職種の人に受け入れられる表現,説明であることがのぞましいです.説明を詳しくして,「前面・後面」という言葉でなくても分析できるようにしました.「最上端と最下端」も別の言葉で説明します.
 
 「重さ」の概念についても科学的に明確にします.頭を持ちあげる方法の違いにより重さが変わって感じられることの解剖学的生理学的説明をします.

 ファシリテータは,参加者の学習を促進する人ですから,教育,とくに教育心理学が役立ちます.キネステティク・クラシックでは,ヴィゴツキーの社会構成主義教育理論を簡単に紹介してコースの学習環境保持に役立てるようにします.

 人間は重力場の中で動いています.ですから,体の構造と重力との関係を知ることが役立ちます.これにはわたしが2016年から提唱している「進化発生ロボット介助リハビリテーション学」(勝手に作った)が役立ちます.からだの骨格とロボットを見せて何が起こっているかを説明します.

 キネステティクの概念の内容は大変うまく構成されています.そこを理解できるようにいろいろな学問,知識,ツールを使い教育できれば,今までよりわかりやすい「動きの言語化」が可能になるでしょう.そうすれば,動きに問題を抱えた人は自分で分析して問題解決できるかもしれません.自分で解決できない人は,キネステティクの概念を理解した人が手伝って問題解決できるかもしれません.
組織の拡大でも参加者の増加でもなく,多くの人が動きの問題を解決できるようになることが,NKAのキネステティク・クラシックの目標です.そうすれば,多くの人の苦しさがへり世界平和に近づくでしょう(わたしは本気でそう思っているのです).