父の「発達」と「学習」

 私の父は、80歳で胃の全てと膵臓の1/3の切除術を受けました。

 手術前の検査の後、膵炎になり、腹水がたまり、手術まで時間がかかりました。


 私は父に言いました。


 術前にたばこを吸っていると、術後に痰が多くなり、肺炎になることが多い。

 そのときに苦しむのは自分だから、たばこはやめた方がよい。

 しかし、手術の1週間前までやめませんでした。

 提案もしました。


 手術の後、自分で動くことが回復を早めるから、術前から動き方を練習した方がよい。
 
 その気があれば、教えよう。

 父は答えました。

 おれはおまえの書いた本は読んだ。手術の後に自分で工夫しながらできる。

 必ず必要になるから言って、側臥位から端座位になるときの、ポイントだけは示しておきました。


 術後1日目に面会に行ったときに、軽くアシストして「支える面」と「運ぶ面」の動きを思い出させ、呼吸に使う筋肉を思い出させてあげました。

 2日目の朝には、ベッドサイドに立つことができました。

 3日目に呼吸の筋肉の動きを思い出させてあげたら、「こんな軽い刺激で呼吸が楽になるんだなあ」と、感心していました。キネステテイクスとフェルデンクライス・メソッドの学習が役立ちました。


 順調に食事も開始になりました。消化器外科医の経験から父に言いました。


 食事は吐くまで食べなさい。

 吐くことは失敗ではありません。

 吐くことで『ここまで食べると通過しなくなる』ということを学習できます。

 そうすると、次からは、吐く直前まで食べられます。

 いわゆる失敗することは、学習のチャンスです。

 『吐いてはいけない』と思い、吐くことを経験しないと、『食べない』ことを学習してしまいます。

 術後は『食べる』ことを学習すべきです。

 そのためには、『吐くまで食べる』ことが必要です。

 入院中は、そのような『いわゆる失敗』が許されます。

 入院中だから安心して失敗できます。

 入院中に『上手に食べよう』とする人は、学習しません。

 そのような人が、『吐かない』という成功をしてもそれは学習になりません。

 『役に立つ失敗と、意味のない成功』ということを知るべきです。」


 父は、良く理解してくれました。安心して吐くまで食べ、すぐに自分の食事の勘を得たようです。

 術後10日目には、父のデスクトップコンピュータのデータをすべて、ノートパソコンに移し、病室に持って行きました。

 手術までは病院から外出して自宅で、コンピュータで文書を書いて遊んでいたからです。

 速く退院させるには、入院中も自宅でやっていたことをさせることです。

 これが本当のリハビリテーションです(実は入院患者はコンピュータの使用を認められていないのですが、黙認してもらいました)。


 父は「すっかりやせて、筋肉がなくなった。うまく動けない」と言いました。

 私は答えました。


 若いときは、筋力も骨も強くなる。

 それに合わせて、コントロールすることを学習する。

 老人は筋肉も骨も弱くなる。

 それに合わせて、時間を使いコントロールすることを学習できる。

 時間を使うことは、良いことだ。筋力を鍛えて、若いときと同じく速く動くことを求めるか、時間を使い、少ない筋力でも華麗に動くことを求めるかを考えた方がよい。


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