実践の観察から

 従来の創傷治癒理論では、「炎症期、増殖期、成熟期(再構築期)」に分けられています。

 基本的には炎症期が3日間くらいその後に増殖期が3から7日間、そしてその後6ヶ月以上の成熟期になるといわれます。

 「炎症期、増殖期、成熟期(再構築期)」の分類はどんな細胞が働いているかに基づく「経時的な分類」です。

 炎症期には炎症細胞が働き、増殖期には線維芽細胞がコラーゲンを作り、成熟期には血管の内皮細胞がコラーゲン分解酵素をだして、瘢痕を吸収していきます。

 これは「時」から見た分類です。

 しかし、創傷治癒が「生きているシステム」のプロセスであると考えると、「時」で分類するのは適当ではありません。

 プロセスはいつ始まりいつ終わるかわからないからです。

 「期 stage」は時間の概念が入りますから、第2期の後は第3期であって、第1期に戻ることはありません。

 時間は一方向に流れるからです。

 プロセスを見るには「相」を使います

 これは時間に左右されません。

 第1相は第2相とは異なりますが、順番を示しません。

 形や機能が違うということだけです。

 「相 phase」は空間や機能の概念を使います

 そこでどんなことをしているかで決まります。

 ですから、それぞれの「相」の間は行ったり戻ったりできます。

 褥瘡の創傷治癒は4つの相に分けてみることができます。

外見 起こっていること
外見上は正常の皮膚
第1相では、外側から変化を見ることはできません。

 しかし、内部では組織の「異物化」が起こっています。異物化相です。


第2相は、中央の組織に対する異物反応の反応相です。

 異物反応は組織破壊を伴いますから、炎症が生じます。

 炎症相
でもあります。表皮の脱落や水疱として観察されることもあります。


第3相では異物反応=炎症はなくなります。

 肉芽が増殖し収縮します。増殖相です。

ふつうの瘢痕の状態
 この後、創が完全に上皮化されると、収縮した肉芽の瘢痕の中のコラーゲンが吸収されます。

 第4相の吸収相になります。


 褥瘡の治癒のプロセスを見ると、行ったり戻ったりすることがしばしばあります。

 良くなったと思ったものが、悪くなるときは、増殖相にあったものが、炎症相に戻ったのです。

 増殖相にあったものに不適当な「力」を加えて、異物化相に飛んで戻ることもあります。

 そして、異物となった組織が炎症を起こします。


 左の写真の時期を「期」で評価しようとすると苦しくなります。

 「相」でとらえると、中央の壊死の周囲は「炎症相」であるし、健常な皮膚から出ている肉芽は「増殖相」であると評価できます。

 そして、中央部近くの炎症相に外的要因、たとえば外力や細菌感染が及べば、その直下の骨膜、筋膜が異物化相となり、褥瘡は深くなるかもしれません。

 

 褥瘡を「期」でとらえるということは、「まだ起こっていないこと、これから起こるであろうこと」を予測したとらえ方です。

 「相」でとらえるということは、「今、ここで起こっていることを、あるがままに」とらえることです。

 ふふふ、どこかで聞いたような言葉でしょう?

 「期」という表現を使っていても「相」で考えていた人が多いでしょう。


 このページを読んで「そうか、期ではなく相と言えばいいんだ」と考えた人は、熱いからとフライパンから飛び出して、下で燃えている火の中に落ちる豆のようです。

 また、とり違えています。言葉自体に「意味」はありません。

 「期」でとらえることと、「相」でとらえることのどちらが正しいというのではありません。

 将来は予測できる思って「期」で考えていると自覚していれば問題ありません。

 その考えの責任は本人がとれます。

 「自分は将来を予測する能力がないから、『相』で考えている」と自覚しないのに、「相」で考えるのは責任をとれないことをすることになります。

 大切なことは、「自分がどんなものを見て、どんな考え方をしているかを知っていること」です。

 自分のしていることを知らないと、思っていることを伝えられません。

 お互いが自分のしていることを知っていると、違う言葉を使い、時間がかかっても、内容は伝わるかもしれません。


 もし、あなたにとっては「相」という見方のほうが理解しやすければ、それは自分の見ている臨床の病態にぴったりしているかもしれないということです。