実践の観察

 今までの写真のスケールと傾きを合わせて、モーフィングしてアニメーションにしました。

 このアニメをちょっと離れてじっと眺めてください。

 10回くらいくり返して眺めてください。

 
何が起こっているかが感じられるかもしれません。

 元気な真皮が残っているところは、組織欠損になりません。

 褥瘡の中央も組織欠損しません。

 「動きの欠乏」を起こしたところと周囲組織の「境界」で、組織が周囲から攻撃され溶かされてしまいます。

 創の最深部の異物化は一番最後です。

 肉芽の収縮により周囲の皮膚が引き伸ばされていくのがわかります「創傷治癒理論」参照)。

 最後の「しわ」がその「引っ張り」の証なのです。
 
 この症例で起こっていることを左の写真で示しました。

 骨の直下の組織に最大の応力がかかっているはずです。

 青で示しました。しかし、ここは比較的残ります。

 それより皮膚に近い部分は最後まで残ります。水色の部分です。

 応力が少ないはずの皮膚の浅いところで、かつ骨の直下より離れたところで、「よそ者の排斥運動」が最大です。

 赤い部分です。赤い部分より外側が表皮剥離しているところです。

 黄色いところは赤いところほど異物反応が強くないところです。

 デモ隊を警官隊が取り囲んだところを思い浮かべてください。

 デモ隊の真ん中の人の周囲は同じデモ隊の人ですから、戦いはしません。

 しかし、周囲は警官隊と接していますから、小競り合いから暴力沙汰になります。

 そして、警官に捕まり連行されます。

 同じことが、この褥瘡で起こっているのです。

 ですから、真ん中は最後まで残り、周辺から損傷していきます。異物反応だからです。

 従来の創傷治癒理論の解説では、以下のように言われます。


 圧迫が短時間ならば、皮膚は一時的に赤みを帯びるだけで、血流の遮断による変化はやがて収まり、組織は息を吹き返し元に戻る。この時点では、損傷はまだ可逆的である。

 しかし、
圧迫が長時間続くと変化は非可逆的となり、圧迫を受けた部分の皮膚は完全に懐死に陥る

 実験的には、同一箇所に2時間持続的に圧が加わると褥瘡が発生するといわれている。




 従来は圧や応力が血流を遮断して、組織を損傷させると考えられています。

 しかし、実際の褥瘡を見てみると、起こっていることは、生体が一度虚血になった組織を早めに排除しているように見えます。

 科学とはものの見方ですから、何が正しいというものではありません(「科学とは何か」を参照してください)。

 従来の創傷治癒理論でも困らないでしょう。

 でも、ここで示した症例を説明するには、今までのものとは違う見方のほうがわかりやすいかもしれません。