夢判断
「日の名残り」

 このように、日中の覚醒しているときに体験したときのことを、夢の中で思い出すことがあります。

 そういう夢を、「Remains of the day 日の名残り である」と、フロイトはいいました。

 日中に体験したことが、無意識の中に「名残り」を残して、夢の中でその体験を完成させようとするというです。

 日中、会ったときに、無意識の中で、「ああ、おじいさんに似ているな」と思っても、「あなたは私の死んだおじいさんに似ています」と言えなかったのです。

 無意識にある心が、その体験を完成させるために、夢を使うといいます。



 ここで、映画と小説の紹介です。


 カズオ・イシグロは9歳の時に、イギリスに渡り、イギリス国籍を得ました。

 1989年の作品が ”Remains of the day”です。

 「日の名残り」として、映画化されています。

 アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンが主演です。

 二人ともすばらしい演技です。

 俳優は、実体験でないことを、こんなにリアルに表現できるのですから、実生活で俳優を信用してはいけないなと思うほどです。

 しっとりとした感じの良い作品です。

 アンソニー・ホプキンスの演じる執事が、いろいろな回想とともに、かつてともに働いた女中頭であったエマ・トンプソンを尋ねる旅の物語です。

 わたしは映画を見て感動し、原作を読んでみて、また感動しました。

 小説の方がずっとおもしろかった。

 映画は視覚に訴えるように作らなければならないので、心理描写が難しいようです。

 原作についての Amazon.com のページに出ている解説の冒頭です。


 From Publishers Weekly

 Greeted with high praise in England, where it seems certain to be shortlisted for the Booker Prize, Ishiguro's third novel (after An Artist of the Floating World ) is a tour de force-- both a compelling psychological study and a portrait of a vanished social order.

 出版社賞候補に上げられることが確実と思われるイギリスで、高い賞賛とともに迎えられたイシグロの"An Artist of the Floating World" に次ぐ第3作は力作である。

 賞賛せずにいられない。

 心理学的研究
としても、消えていった階級社会のポートレートとしても。


 この小説を読んだ後でも、この解説は理解不能でした。

 第2次世界大戦で階級社会が崩れたことはわかりましたが、なぜ、心理学研究とまで書かれるのか?

 フロイトの夢判断について学習して、初めてわかりました。

 この執事は、無意識のレベルで女中頭に愛情を抱いていたのに、執事としての超自我に押さえつけられていて、それを表現できなかったのです。

 その表現されなかった感情を、表現しようとして旅に出ました。

 この旅が「日の名残り」なのです。

 この小説の題名自体が、はじめから、この執事の旅は夢であることを現していたのです

 この旅は夢ですから、、旅の終わりとともに、執事は夢から覚めて、現実に戻るのです。



 英語圏の知的階級は、"Remains of the day"という言葉で、「夢」や「無意識」を連想するのでしょう。

 フロイトの精神分析はヨーロッパの文化にそれほど大きな影響を与えているのです。

 
pre next