本題

 ここまでが、前置きでした。いよいよ、本題です。

 舌骨上筋群、舌骨下筋群は、飲み込み(嚥下)に使う筋肉です。

 しかし、舌骨下筋群で、甲状軟骨と舌骨を引き下げて、舌骨上筋群で下顎骨を舌骨に引き寄せると、下顎骨を引き下げることができます。

 あごを押さえて、口を開けようとしたときに力を入れた筋肉は、これらの舌骨上下の筋肉です。

 本来、口は自然に開きます。地球の引力が顎の動きを引き出してくれます。

 それに従わず、「口をあけよう」と思ってあけると、これらの筋肉に力が入ります。すると、自然な開け方ではなくなります。

 「のど」の筋肉を緊張させずに、口を自然に開けると、顎の関節に負担はかかりません。

 呼吸も楽にできます。歌も上手になります。トランペットも楽に吹けます。

実験

 咬筋、側頭筋、内外側の翼突筋の緊張を解いて、自然に口を開けて歌ってください。

 つぎに、舌骨上下の筋群に力を入れて口を開けて歌ってください。


 どうです。わかったでしょう?

 ここまで紹介した舌骨上下の筋群は、飲み込みという「消化」に使う資源です。

 「のど」を動かして飲み込むための筋肉です。この筋群が動くということは、「のど」が緊張するということです。

 「のどに力を入れて歌う」ときに、これらの筋肉に力が入っています。

 人間は自然に呼吸できるようになっています。歌うことは呼吸することです。

 呼吸に力を入れなければならない人は、もうすぐ死ぬ人か、よけいな力を入れて死に急ぐ人です。

 消化のための筋肉を、わざわざ「呼吸」の邪魔に使ってはいけません。

 ですから、小学校の音楽の時間に、「口を自然に開けなさい」、「のどに力を入れないように」と教えられたのでした。

 でも、あのころは解剖を感じていなかったのです。その「言葉の意味」が理解できませんでした。

 今、体を感じるようになって、体験から意味を知るようになりました。

 これで、のどの解剖がわかったので、あなたは持っている資源を使って歌うことができます。すばらしいでしょ。

 これは吹奏楽でも同じです。トランペットでは「のどを開け」と教えられます。

 「頭から音を出す」とも表現されます。頭から音が出るわけはないのです。

 音は楽器から出ます。その楽器に吹き込む息は、のどを通ってでます。その「のど」は今まで書いたように使えます。

 これを理解してトランペットを吹くと、楽になります。うまくなります。少なくとも、私はそうです(なんせ、元がひどいから)。