早い話を、長く説明しよう。
すぐに終わる話を長く説明することは、親切である。
校長の挨拶、政治家の答弁、結婚式の仲人の新郎新婦紹介は、すべて親切である。
気持ちよく眠れる。
わたしはクレジットカードをもっている。
アメリカの学会に行こうとしたときに、「海外旅行の時は、カードがないと支払いに困るよ」と言われて作ったものである。
わたしは仕事している振りをしながら、脳の働きを止めて休めていられるほど、器用である。
しばしば、そのような状態で返事までしている。
そのくらい器用であるから、プラスチックの下敷きを切って、自分で作ることもできた。
しかし、そのようなカードではアメリカでは認めてくれないと言われた。
アメリカ人は人を信用できない民族なのだろう。
旅行は差し迫っていた。
ホテルの支払いをせず、野宿するのはいやだった。
そんなことをしたら、きっと気持ちよくて永住したくなるだろうからである。
しかたなく、クレジットカード会社に申し込みして作ってもらったのである。
年収、家族構成、職業、信仰、好きな女優、嫌いな食べ物、歯磨き粉の種類、トイレの回数などを申込書に書き込み提出した。
「こんなに稼いでいないだろう」とか、「おまえのようにやつが、そんな職業に就いているはずがない」という当たり前の指摘をされて拒否されるのではないかとおそれながら提出した。
なんの非難中傷もなく、カードは発行された。
しかし、年会費が有料なのだ!
これはひどい。
わたしのような人間にカードを発行するほどに信用調査のいいかげんな会社のくせに、年会費を取るとは!
なぜか?
それはわたしが申し込んだからだ。
年会費有料のカードを。
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