ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン 3

直示による定義と言葉による定義

 「直示による定義」というのは、リンゴを指さして、「これがリンゴです」というものです。

 「そのもの」を見せたり、ふれさせたりして直接相手に理解させます。

 「言葉による定義」
は直接、対象を示さず、対象を示す「言葉」で定義します。

 「言葉による定義」
の例は、「右は北に向かって東の方です」というものです。

 これは意味を考えると、何も新しいことは言っていません。

 聞き手が、この定義で「右」を正しく理解できたなら、「北」も「東」も知っていることになります。

 「北」と「東」を知っているということは、すでに「右」という方向を知っていたのです。

 ですから、「右は北の方に向かって東の方です」という定義は、「右は右です」と同じことです。

 言葉については、「北に向かって東の方を右と呼びます」と言っているだけです。

 「右という事柄」を定義しているのではなく、「右という言葉」を定義しているだけです。

 「言葉による定義」は、新しいことを表現できません。同じ意味の言葉で言い換えていることになります。

 同義反復
です。

 新しいものごとを「知る」には、「直示による定義」が必要です。

 つまり、「体験から学ぶ」ことになります。

 ウィトゲンシュタインは「哲学探究」を書いたときには、アリストテレス的立場を捨てています。

 「言葉」を厳密に定義して、正確に語ろうとすることは、できないと見ています。

 「哲学探究」の中で有名な言葉が、「語の意味とは言語におけるその使用である」です。

 わかりづらい表現です。

 「言葉」はそれだけでは意味を持たず、使われる状況の中で意味を持つというのです。

 そして、話すことを学ぶ段階の子供に,言語を教えるとは, 「説明することではなく,訓練すること」だと言います。

 ヴィゴツキーの「内言論」を読んでからここに来た人は、よくわかるかもしれません。