これらは「名前」というものが持っている「力」を示しています。

 「名前」には「力」があります。

 それは魔力ではありません。

 「限定する」という力です。

 彼とか彼女という代わりに、その人の「名前」そのものを使ってみると、「名前」の持つ力がはっきりします。

 「ああ、それは彼が悪いんだ」 と 「ああ、それは佐藤が悪いんだ」 です。

 誰のことを示しているかわかっている場合でも、実名を出すと、話している内容がとても具体的な感じがします。

 代名詞より、固有名詞の方が、現実的でとても「強い」感じを受けるでしょう。

 冗談でもうかつなことを言えなくなります。



 「名前」は限定するという力を持っています。

 ですから、「本能」とか「存在のための無意識」というような特有の名前をつけてしまうと、フロイトの示したいものが限定されてしまいます。

 それで、フロイトは、それが何であるかをはっきりさせないために、「エス」と呼んだのです。

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