創傷治癒理論


 褥瘡は特殊な傷と考える人は多いようです。

 もし、そのように考える人が少なければ褥瘡学会はできなかったでしょう。

 しかし、多くの人が考えていることとは反対に、人間というシステムにとって、「特殊な傷」は存在しません。

 観察し治療している人が「特殊」という価値をつけています。

 褥瘡は特殊なのではなく、ふつうの深い傷に対して治癒する条件(「動きの支援」)を与えずに治療するという「特殊なケア」をしているだけにも見えます。

 ここでは褥瘡はふつうの傷と同じものと考えています。

 「褥瘡は特別だから・・・」と考えると、「今、ここで起こっていること」が見えなくなります。

症例
 
 上腸間膜動脈血栓症のために、ショック状態で手術された患者さんの前腕です。

 小腸を20cmくらい残して、血液の流れなくなった回腸、空腸、盲腸、上行結腸、さらに横行結腸の右半分を切除しました。

 ショック状態改善のため点滴で静脈内投与されたFOYが皮下に漏れて皮膚が壊死になりました。

 壊死した皮膚を除去しましたが、黄白色のスラフ(ひも状の壊死)が創底に付着しています。

 細菌培養をすると細菌は検出されます。

 フィルム材で覆い、湿潤環境にて管理しました。

 その経過がこのアニメーションです。

 浸出液が多いため、フィルム材ははがれやすく、管理しづらかったのですが、1週間後には黄白色のスラフはなくなり、2週間後にはきれいな肉芽になりました。

 一部、ポケットができていたので、切開して開放しました。

 炎症が治まり、肉芽が収縮するにつれて、周囲の皮膚が引き寄せられました。

 最終的には、引き寄せられた肉芽の上に表皮が伸びて、上皮化が完了しました。

 この創を例にして、観察しながら、創傷治癒理論を解説します。
未完