まずは、ドイツ語の文法をちょっと解説します。
ドイツ語にはesという中性代名詞の形式語があります。
「雨が降っている」は"Es regnet"です。
「雨が降る」は動詞の"regnet"で示されますから、このesは意味を持たず、文法上の主語を置くために使われています。
非人称主語とか形式主語と呼ばれます。
形式主語とは、特定の意味を持たずに文章の形式を整えるための言葉です。
「・・・がある」は"Es gibt…"と表現されます。Esはなにかの「存在」を示しています。
es は形式的な目的語になることもあります。
難しいことのように思うかもしれませんが、皆さんはすでに中学で形式主語を学んでいます。
「雨が降っている」というのは"It rains"です。
「雨が降る」は動詞の"rain"で示されますから、このitは意味を持たず、単なる文法上の主語を置くために使われています。
このitも形式主語です。
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フロイトは
「それまでの文化で使われた言葉」で表現のできないもの、
人間の心の底に沈んでいて、それ自体は意識に上がってくることのないもの、
意識に上がってこないけれども、人間の行動に大きく影響を与えるもの、
人間の行動の目に見えないエネルギーの元となるものをたくわえているもの
を、人間にとって意味を持たない形式だけの「エス(es)」という言葉で示したのです。
それはいままで名前をつけられたことのないものであって、今まで名前づけられている本能でもなく、無意識でもないのです。
そういうものを指す言葉として、esを名詞化してDas Esとしました。
esは形式だけで意味を持たないので、人間が意識できないものの「存在」を指し示すのに都合が良かったと思います。
日本語への翻訳では単にエスと書かれます。
エスはフロイトが、命名したときから観察や研究の対象に上ってきたものです。
ですから、それまでに認識された言葉で表現すると、今まであったものの定義に限定されてしまい、正しく理解されません。
ただ、漠然とエスと呼んでおくこにしました。
研究が進むにつれて、そのもの自体が認識されるようになるでしょう。
実体がわかれば、適切な「名前」が後から付けられるでしょうから・・・。
(2013/07/04 かつてesを指示代名詞と表記していました。kurikiさんから指摘されて誤りに気づきました。 形式主語、形式目的語と表記し、記述を修正しました。)
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