全体論
Valid HTML 4.01!
途中で理解不能でも、最後まで読むこと!

 「全体論」という名前のない全体論
duhem
 フランス人のピエール・デュエム(Pierre Duhem, 1861-1916) は、物理学、化学、哲学、科学誌の研究者でした。

 デュエムは1905年、La Theorie Physique 「物理原理」を書きました。

 実験により法則を解明するのではなく、法則の組み合わせを分類するのが目的でした。

 この中でデュエムは、次のように言いました。


"une infinite de faits theoriques differents peuvent etre pris pour la traduction d'un meme fait pratique"

現実に起こっている一つの事象の解釈のために、数え切れないほど多くの理論による測定が存在しうる

 実験のために10センチの棒を用意しても、その棒の長さを策定するとね10.1センチだったり、9.99センチだったりするというのです。

 現実に起こっている事象は10センチの棒として観察されていても、理論的には10.1センチや9.99センチの棒による実験なのです。



 今のいわゆる「科学」では実験をして仮説の正否を決めようとします。

 実験をして結果が仮説の通りになるかどうかを見ます。

 結果が仮説の示すとおりにならなければ、仮説を否定するのです。

 しかし、デュエムは言います。

 何かを証明しようと実験しても、"une experience de physique ne peut jamais condamner une hypothese isolee, mais seulement tout un ensemble theorique."

 物理学の実験は仮説を否定するのではなく、その実験の理論的組み合わせを否定するだけである


 実験には、検証しようとした仮説以外の理論が無数に組み込まれています。

 たとえば、「てこ」を使って、力が何倍になるかを実験するとします。

 しかし、そこには「てこ」についての仮説のほかに、以下のような仮説があるのです。


 支点の摩擦は無視しうるほどである。

 てこにする棒のしなりは無視しうるほどである。

 実験するときの温度で棒が伸びることは無視できるほどである。

 測定に使う分銅の重さは地球の重力の地磁気の変化の影響を受けない。

 測定機器は常に正しい値を示す。


 もちろん、ふつうのてこの実験では、このような条件はすべて誤差の範囲として処理されるのですが、微量の測定をするようになると、問題が生じます。

 ですから、実験は1回で終わりにしません。

 何回も繰り返して、同じ値がでるかを見ます。

 たいてい、測定誤差が出ますから、平均値をとったりして統計学的処理をして、誤差の影響を減らそうとします。


 科学論文をみると、実験の条件や使った材料の入手先、ロット番号、測定機器の製品名などが詳しく書かれます。

 つまり、何かを実験の結果は、その実験の環境で起こることについてだけ言えるのであり、一般化はできません。

 一般化するには、実験で証明した仮説のほかに、「この実験結果が一般的にも言える」と言うための、無数の仮説を証明しなければなりません。

 それまでは、アリストテレスやデカルトのように、「全体」を「部分」に細々と分解していき、その「部分」の性質を研究することが、「全体」を知るもとだと考えられていました。

 しかし、デュエムの言うことを認めると、「部分」を実験で証明することさえもできなくなります。

 それでは、科学を証明できなくなります。

 デュエムは厳しい批判に合いました。

 えっ、何を言いたいのかわからないですか?

 そんなときは、知らんぷりして続けて読みましょう。
back next