体験から学ぶ

 2006/02に、北海道の上川北部地域リハビリテーション会議に依頼されて、キネステティクの体験セミナーを行いました。

 高速道路も閉鎖になる大雪の中で、札幌、旭川、士別から5人のアシスタントに来てもらい、行うことができました。。

 吹雪の中、参加してくださった方には、このページでお礼を申し上げます。



 わたしはキネステティクの概念を、順を追って伝えるということには飽きています。

 ですから、今回のセミナーはセンサリー・アウェアネス、アレクサンダー・テクニーク、フェルデンクライス・メソッドで体験してわたしが学習したものを、わかってもらえるかもしれないと思い、試してみました。

 世話人の森君からアンケートの結果が来ましたので、ここに紹介します。

 アンケートに答えて頂いた方の個人情報はわからないようにしてあります。


 以下の青文字は、私の感想です。

 参加者 29名、 回答者 23名

1. 参加者の職種(回収したデータ分のみ)

 PT;6名、OT;1名、ST;1名、Ns;4名、保健師;1名、介護福祉士;3名、リハ指導員;2名、介護職員;4名、PTS;1名



2. 以前から「キネステティク」を知っていましたか?

 はい〜8名(35%) いいえ〜15名(65%)

 8名も知っていたとは驚きです。まだまだ、知名度は低いと思っていたのですが・・・

3. 上記2で「はい」と答えた方で・・・。

 @ 受講前の「キネステティク」のイメージは?

   ・解剖学、運動学、生理学、心理学等の基礎学問を統合し、コミュニケーション面から対象者の動作に必要な感覚を再学習し、介助をする考え方の1つとして捉えていました。

     おお、すごい。ここまで理解されたら、私が伝えることはないかも・・・

   ・患者様をうまく介助する方法の1つとして捉えていた。

     私も最初はそう思ってドイツに行きました。それもキネステティクの一つだったのです。

   ・自分の身体を理解して、他者を理解するというイメージです。

     うん、これもキネステティクの一つです。

   ・相手の力を利用して行う介助の仕方。

     これも一つ。

   ・介護される方の力を使い、お互いに負担にならない介護法として、噂で聞きました。

     なかなか、良い噂が流れています。

   ・起き上がり、立ち上がりの介助の方法を教えてくれる。

     たしかに、それも教えることができます。

A また、「キネステティク」をどのように知りましたか?

   ・書籍や澤口先生のHPで知りました。

     うっ、ちょっと恥ずかしい。

   ・何度か短時間教えていただく機会がありました。

    そう、時々、「教える」といいながら、他の人の体を使い実験して確かめています。

   ・PT,OT,STの勉強会で知りました。

    そういえば、倶知安でもセミナーをしたから・・・でも、今回はセンサリー・アウェアネスや心理療法からのアプローチを強化しています。


 ここから、具体的な感想です。

 ここに書かれた感想はわたしの予想したものより、ずっと「質の高いもの」です。

 参加した方々に、このページを借りてお礼申し上げます。


4. 今回、受講された感想や新たな発見などは?

 ・私はPTであるので、身に付けている知識を基に、患者さんをはじめとする対象者、介助者に対して何が必要なのかを評価するという基礎的な考えに立ち返る機会になりました。

 この方はすばらしいです。PTという専門家として仕事をしているのに、そこからふたたび原点に戻ることに気づけることがすばらしい。

 ・実際に体験できて良かったと思います。本で読んだことはありましたが、体験したことで今後に反映できるような気がします。

 そうです。本で読むだけでは伝わらないものがあります。「体験だけで伝わるものがある」という体験は、自分の仕事、生き方に役立ちます。少なくとも、私には役立っています。

 ・患者さんが何をしたいのか、しているのか、どう感じるのかを知ることが大事。患者さんが感じる重さなどが、重要なポイントなのかなと理解できました。(座位での前方移動介助)

 「重さ」の感覚、地球とインタラクションしていることに気づくと、他の人とのインタラクションにも気づいて・・・、どんどん理解が広がるかもしれません。

 ・今までやっていた事が崩れた感じがしました。明日から、患者さんとの関り方が変わると思います。

 この方が今までやっていたことは、無駄にはなりません。今回感じたことを鮮明にするためには、「今までやっていたこと」は役立っています。今回、新しいことを学習したのではないかももしれません。ただ、気づいただけかもしれません。。今までやっていたことの中に、今回感じたことの芽が存在したのです。

 ・1つの動きをするにも、まずどのように動いているかを知った上で、自然な動きを手助けすることが大切。緊張状態にいると(無意識であっても)、本来の力が出せない。とても面白く、良かったです。今後役立てていきたい。

 「自然な動き」、「緊張しないこと」はとても大切です。それに気づいてもらえたら、うれしいです。

 ・意識にのぼらない感覚が、動作には重要。

 そうです。それには、フロイトが前意識と呼んだ状態にある「感覚」を意識状態に持ってくる「気づき」が役だちます。

 ・姿勢緊張との関係について、もう少し詳しく知りたい。

 うーん、これは私にとっても難しいことです。でも、毎日の生活の中で気づいてみるように努めていきたいと思います。

 ・実習を行ってみて、リラックスすることって難しい事だと思った。リラックスするためには相手に信頼感や安心感を持つことが必要だと思った。

 「リラックスしよう」と思うと、苦しくなります。ただ、「今自分が何をしているか」を感じて、苦しいと思うことをやめると楽になるかもしれません。あっ、それが信頼感や安心感というのですね。

 ・実技を行い、普段感じることがない感覚がわかりました。1人1人感じ方が違うのは勉強になりました。

 「ひとり、ひとり、感じ方が違う」という言葉で理解していると思っていたものも、体験してみると重さが違うことに気づいたでしょう。良い学習をしたと思います。

 ・午後からの実習で、身体の緊張をほぐしたり、リラックスさせる事ができるのだなと、驚きました。

 昼食を食べていたときにアシスタントに、「午後から何をしたい?」と聞いて、「『楽な感じ』を体験させたい」と言われて、行なったものです。簡単な接触で楽になることを体験すると、接触の大切さに驚くでしょう。今度は、あなたがその驚きを相手に伝えることができます。相手を「感じ」さえすればよいのです。

 ・使える機能を最大限利用し、自分でもできるという感覚を入力する考え方を学びました。

 「感覚を入力する」というのは、なかなかうまい表現です。そのためにも、自分の感覚を認めて、許すことが大切ですね。

 ・相手の動きをいかにサポートするかという考え方は、日常不足していたので新鮮でした。

 「サポート」も大切な言葉です。「引かれる」のでもなく、「押される」のでもなく、「サポートする」ことが求められていることかもしれません。

 ・日常生活の動作で、どこの部分が動いているのか、力が入っているのか等、細かく考えたことがなく、今回の実技で詳しくわかる事ができて良かった。

 これはキネステティクの「マスとツナギ」や「力」の概念、アレクサンダー・テクニークの中の「体の地図」の考え方です。あなたの感じたとおり、自分の感じていることを理解するのに役立ちます。

 ・基本的な動作については、理解してるつもりでも、実行してみるときちんとした理論に基づいていなかった事が判り、大変納得しました。患者本人の持つ自然な動作より、自分中心の動かそうとする考え方が優先だったのではと反省しました。

 「介助」というのが、「手伝うことだ」ということに、私が気づいたのは、医者になって20年以上たってからでした。きっと、あなたの方が若いでしょうから、わたしより上手にできるようになるでしょう。

 ・介助される方の気持ちも理解できました。生活の中でいかにリラックスすることが大切かを知りました。これからの指導に役立てていけたらと思います。

 よけいな緊張のないこと、最低限の緊張で生きていくことが「楽に生きる」ことです。それに気づけたら、楽に指導できるかもしれません。

 ・対象者をまず知るという事から始まる、ということを聞かせていただき、当たり前のことに気づかなかった自分が少し恥ずかしくなりました。

 「相手に対して興味を持って接する」というのが、人間性心理学のマズローやロジャースが言っていることです。これを言葉ではなく、動きのコミュニケーションで実現すると、あなた自身のキネステティクになります。ぜひ、これからの仕事、生活の中で試してください。おもしろいです。


 ・何となくはわかっていたが、基本的な動作でも、どこがどうなっているかがわかっていないと、介助なんてとてもできないと思いました。

 すばらしい。そこを理解できると、自分の動作を興味を持って観察できます。そうしたら、自分が楽に動けるように、だんだんと変わります。その後、介助はとてもおもしろいものだと気づくかもしれません。

 ・自分の身体の動き、緊張しているところに気づかされ、楽な姿勢で身体を動かすことが、自分にも患者さんにも大切だと気づきました。

 ありがとうございます。「気づく」ことの大切さにも気づいていただけたように思います。「気づくことに気づくこと」をベイトソンは二次学習と呼びました。良い学習をしましたね。

 ・身体を動かすとき時の筋肉や骨の動き方を知ることができた。相手の身体の動かし方を見て、それに合わせて手伝うと、とても楽に介助できることがわかり、良かった。

 「相手に合わせて手伝うこと」はフィードバックによるコミュニケーションです。だから、「介助はコミュニケーション」です。気づいたものを大切にしてください。きっと、もっと気づいていけます。

 ・感覚が研ぎ澄まされるような不思議な感覚でした。車椅子移乗に色々な方法があるようで、臨床で上手く使えるようになりたい。今回の研修だけでは、まだ難しいですが・・・。

 「感覚がとぎすまされる」という表現は、私に対する最大の賛辞です。私は「自分の感覚をとぎすましなさい」といつも言っているからです。それを感じてもらえただけでありがたいです。

 ・普段の生活及び仕事で、関節の動きとか筋肉の緊張など考えて行っていなかった。他動的に少し筋肉を動かしただけで、身体がリラックスし背が伸びたような、身体半分が生きている感覚が鋭くなったのにはびっくりした!意識のない方に同じように触れると、感覚が鋭く感じてもらえるのかと思った。

 自分の体が楽になると、伸びると感じたのはすばらしいことです。もちろん、あなたも患者さんに感じるようにお手伝いできます。相手を感じ、相手の小さな動きを許してあげると、「お互いに」楽になれるかもしれません。

 ・今まで、移動介助するのに、動けないという思い込みや早く移乗しなくてはという思いで、力任せに移乗させて、自分にも対象者にも負担をかけていたように思います。今回の研修会を受けて、対象者の緊張をほぐし動ける範囲を見極め、出来ない部分のみを介助するという考え方は大事。介護する側・される側両者にとっても大事なことだとわかりました。

 そのとおり。さらに加えると、実際に介助してみればおわかりの通り、介助とは「介助者が動くことを、被介助者に許してもらうこと」です。従来は、「被介助者が動くことを、介助者に許してもらうこと」と誤解されていました。あなたの体はそれに気づいたのかもしれません。ありがたいことです。


 読んでいただいて、おわかりの通り、回答者のほとんどが「気づき」、もしくは自分の体で感じたことを言葉で表現しています。

 それが、このアンケートの結果の質が高いと感じた理由です。

 わたしは体験セミナーで、自分の体を通して、気づいてほしかったのです。

 言葉で教えられた抽象概念ではなく、体験から感じる具体的な「そのもの」の大切さを気づいてほしかったのです。

 わたしが教えることはでません。

 学習は、その人の中にあるものに気づくことだからです。

 ですから、気づける環境を提供しました。



 わたし自身も、「参加者が気づける環境」の一部です。

 ですから、こんなに多くの人が「気づいた」ことを表現してくださることは、とてもうれしいのです。

 言葉ではなく、「気づける環境」を提供することで、伝わるものがあるということは、非言語的コミュニケーションがうまくできたということだからです。

 参加者の皆さん、ありがとうございました。

 また、セミナーができると良いですがしょうが、それがないからと言って、学習できないと思うことはありません。

 毎日の生活の中で、自分の体の声を聞くことに頻回に気づくようになることが、大切です。

 それができれば、わたしのセミナーなど不要になります。

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