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 健康診断は、わたしにとって「自分の体全体の緊張を必要最小限に低下させて、受診者の緊張を感じ取る能力を磨く修行」の場となっています。

 あるとき、30歳代の女性が受診しました。

 いつものようにわたし自身の体の緊張を低下させ、腕を楽にして、腹部の触診をしました。

 「あれっ!」

 下腹部の筋肉が緊張しています。

 ガチガチではありません。

 また、くすぐったいときや、恥ずかしいときとも違います。

 「習慣的に緊張している」という感じなのです。

 上腹部は少し緩いですが、それでも普通の人より緊張しています。

 質問しました。

 「肩こりしませんか?」

 「します。」 その女性はちょっと驚いたように答えました。

 なるほどね。

 胸部の聴診をしながら、胸郭の動きを感じてみると、これまた少ない。胸郭も固い。

 「ちょっと、押しますよ」と言って、聴診器を置いて、鎖骨の下や下部肋骨を呼吸に合わせて、押したりゆるめたりしました。

 「はい、ではこちらに座ってください・・・。肩こりはひどいですか?」

 「整体に通っています。『こんなに固い人は今まで見たことがない』って言われます」と言います。

 「整体では、動かしてもらうだけですか?『ここを感じてみましょう』と指導されることはありませんか?」

 「そんなことはありません」

 そうでしょうねと思いながら、座っている姿を見ていました。

 「あなたの体を触れてみて、感じたのは体全体の筋肉が緊張していることです。

 自分で自分を締め付けています


 わたしが、あなたの胸に手を当てて押したときに、胸の骨が動くのに気づきませんでしたか?

 気がついたでしょう。

 そう、そこの骨です。

 さらにあなたのお腹の筋肉、とくに下側はほとんど動いていません。

 体は苦しいと思いますよ。

 今、椅子に座っているわけですが、そのまま目を開けたままで呼吸を感じてください。

 どのくらい楽に呼吸しているのか、どのくらい力を使っているのか?

 そして、膝を見てください。

 あなたは女性ですから、子どもの頃から『膝を開くのははしたない』としつけられたでしょう。

 あなたの両足は床の上で開いています。

 しかし、あなたは膝が開かないように膝を内側に締めて、両膝がつくようにしています。

 今、その両膝を動くままに許してみてください。そう、膝が開きます。

 呼吸を感じてみてください。

 どうですか?

 そう、楽になった。良かったですね。

 わたしが何かをしたわけではありません。

 あなたは自分の体にさせていることを感じて、それをやめただけです。

 さて、呼吸が楽になったところで、肩を感じてください。

 そう、楽になっていますね。

 膝の締め付けが呼吸に影響するわけですから、呼吸と関係している肩に影響が及んでも不思議ではありません。

 誤解しないでください。

 『肩こりを良くするために膝を開け』とか、『肩こりを良くするために呼吸を楽にしろ』と言うのではありません。

 そんなことをしたら、また苦しくなります。


 こうしなければならないという規則を、他の人からもらうのは苦しいだけです。

 今、あなたが体験したことは、『自分で感じることができる』ということです。

 自分でコントロールできるということです。


 あなたはこれから、ときどき、自分の呼吸に注意をむけて、『胸が楽に上がっているか』を確かめることで、自分の体全体の緊張を低下させて楽にできるかもしれないというヒントを得たのです。そうでしょう。

 人間は苦しんで生きる必要はありません。自分のもっている能力をすべて出せるように楽に生きることがよいのです。

 健康診断をしているのに、こんなことを言うと、怪しまれるから普段はあまり言わないのですが、あなたの体の緊張が強いので、ちょっとお節介をしました。」

 こう言っておかないと、怪しい奴と思われます。

 ただでさえ、十分に怪しいから。

 「整体に通うのも良いかもしれません。

 でも、その後で楽になった『自分に気づくこと』ができれば、自分で緊張をコントロールして楽になれるかもしれません。

 そのあと、体の背中の下が呼吸に使われていることを感じさせてあげて終了。

 この女性の検査データはすべてAでした。

 筋肉や骨を含めて臓器という「要素」はすべて「標準値」を示していました。

 つまり、このひとは部分の集まりとしては何の問題もないのに、「全体」としての機能に問題を持っていたのでした。

 こんなこと言っていると、現代医療からはじかれそうです。

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