「科学と正気」第2版の序から
アリストテレス的態度と、非アリストテレス的態度
原文ではNeurolinguisticのような難解な言葉が使われています。
ここでは、エーイッと簡略化しました。
疑わしいところは原著を読んだください。
斜め読みしないで、きちんと読んでみましょう。
毎日の生活に、とても役立つことが書かれています。
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旧来のアリストテレス的思考
(ほぼ紀元前 350 年) |
新しい非アリストテレス的思考
( 1941 年) |
1
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主語−述語形式 (訳注 「俺は馬鹿だ」のように絶対的尺度で断言する形式を使うということ)
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比較形式 (訳注 「あいつと比べると、俺の方が馬鹿だ」とか、「俺は人より馬鹿のようだ」のように、相対的尺度を使うこと。) |
2 |
ものごとを「白か黒か」のようにものを対称的な関係として見るので、適正な評価ができない |
ものごとを見るときに、非対称的関係を使えるので、適切な評価ができる |
3 |
「客観的」、「永久的」、「物質」、「固体」などの固定した基準を使う |
動的な、変わりうる等の流動的な基準を使える |
4 |
「物質」の「特性」、「物」の「性質」、「特質」を扱う |
機能や動的構造の類似性を扱う |
5 |
二値的な、「これかあれか」という固定的、教科書的判断をする |
流動的であることを認め、「程度」で判断する |
6 |
断定的、絶対論的に「すべての」と言う。ものごとの「性質」は数えられる程度しかないと思っている |
ダイナミックに考え、「すべての」とは言わない。ものごとには数え切れないほどの「性質」があると思っている |
7 |
ものごとを「『すべて』の面で同じであること(アイデンティティ)」で定義する。
(訳注 「病院は患者さんの幸福のためにある」) |
アイデンティティを求めない。重力のように、どこでも共通な「自然の法則」、経験則に従う。
(訳注 「病院は患者さんの幸福のために貢献できることを望んでいますが、職員の生活のためにお金をもらっている仕事の場でもあります」) |
8 |
二値的思考(訳注「善か悪か」、「白か黒か」、「勝ちか負けか」、「男か女か」、「馬鹿か利口か」)、「確信」など絶対を求める |
絶対的なものはないので、実現可能性の高そうなことを目標にする |
9 |
固定した絶対主義 |
変動する相対主義 |
10 |
ものごとは「絶対的無」、「絶対空間」で定義される |
定義は電磁気的空間、重力場などの考えで経験的に間に合う |
11 |
ものごとは「絶対時間」で定義される |
ものごとの定義は、経験的時空間でよい |
12 |
「絶対的同一性」で定義する
(訳注 「赤とは波長が・・・の光 |
経験的類似性で定義する
(訳注 「たいていのリンゴは赤い。酸素をたっぷり含んだ血液も赤い。赤とはそんな色である。」) |
13 |
定義を次々と付け足す。直線的である。 |
機能を考える。非直線的である。 |
14 |
( 3+1 )次元。つまり、縦、横、高さの「 3 次元空間」に、「時間」を足している 。時間を空間とは別物として使っている。 |
4 次元空間で生きている 。時間を空間と同じように使う。 |
15 |
ユークリッド幾何学の世界(訳注 ユークリッド幾何学は平面上の幾何学。高校まで学校で習う幾何学。) |
非ユークリッド幾何学の世界(訳注 非ユークリッド幾何学は曲面上の幾何学で、平行線は交わるし、三角形の内角の和は 180 度にならない。しかし、他の幾何学の公準は適用できる) |
16 |
ニュートン力学系 |
アインシュタイン、または非ニュートン力学系(訳注 時間を加味した相対論の世界) |
17 |
実測値がとても重要 |
推測値も重要な要素 |
18 |
肉眼的かつ顕微鏡的レベル(訳注 目に見える光で感じる世界) |
超顕微鏡的レベル(訳注 電子顕微鏡レベルの世界。推測で分かる世界) |
19 |
自己欺瞞という魔法の世界(訳注 自分の感覚でしか知り得ない世界なのに、客観的にすべて分かっていると思うのが自己欺瞞) |
自己欺瞞からの脱却(訳注 左のことを理解して、限界を認め、「こうかなぁ」と行動して、確かめて修正する生き方) |
20 |
神経線維、神経など観察的思考 |
電気的コロイドのプロセスをいれた思考(訳注 観察のみでなく、神経の電気的興奮を認めること。 1941 年の科学レベルでは、それでも画期的でした) |
21 |
「全体としての生物」という考えの中に環境はない |
「環境の中の全体としての生物」と考える。環境ははずすことのできない必要因子である。 |
22 |
言語と適応について、個々の要素、条件を重視する |
言語と適応について、細かい要素・条件にとらわれない |
23 |
「感情」と「知性」の対立 |
「意味論」的反応(訳注 その状況での「意味」を把握して反応する) |
24 |
「からだ」と「こころ」の対立 |
精神と身体は分けられない「ひとつのもの」 |
25 |
個性を分解しようとする |
個性は一塊。分解できない統一体 |
26 |
神経の働きを統合するのに不利 |
視床と皮質が自然に統合される(視床=人間本来の行動をつかさどる、皮質=社会化された行動をつかさどる、この両者が協調するということ) |
27 |
言語と適応の仕方を意識的に保持する |
言語と適応の構造は発展的に作り出される |
28 |
価値は |
「抽象化」している意識で決まる |
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a)肉眼的にはわからない電子的、電子コロイド的、その他の非言語的プロセスを経て決定する |
a)−c)は、そのための付帯的な道具である
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b)個人、状況で決まる |
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c)抽象化のレベルで決まる |
29 |
自然に逆らった病的な考えで評価する |
自然の道理で評価する |
30 |
神経も体も緊張しやすくなる |
神経も体も休まる |
31 |
精神身体的にトラウマになりやすい |
精神身体的に有利 |
32 |
凶気に走りやすい |
正気に向かう (ここが「科学と正気」という題名の理由です) |
33 |
現実とは、かけ離れた行動をする。頭で考えて事実と違う理解をする |
現実に即して行動する。神経生理学的に科学的に理解する(訳注 自分の体験に基づき、検証しながら理解する) |
34 |
二値論的因果律、原因から結果が必然的に出たと考える。絶対的因果論。
(訳注 「あいつが振られたのは、かっこ悪いからさ。」) |
絶対的因果論の必要のない、非絶対的因果関係を考える。(訳注 「彼が振られたのは、相手がじつは『男』だったのかもしれない。」いろいろな可能性を認める) |
35 |
最終的には言語的に矛盾する「論理」から派生した数学。 |
言葉の矛盾を排除した数学から派生した「論理」。 |
36 |
矛盾する体験は無視する |
矛盾いた体験を直視し修正に使う |
37 |
自分の実際に体験したものを、「言葉」に合わせて表現する。(訳注 まったく新しい体験を従来の言葉で表現すると「体験したもの」が変性します。キネステティクスのセミナーでよく見かけます) |
体験したものに、「言葉」を合わせていく。(訳注 体験したことを適切に表現するためには、従来の表現を作り替えなければならないことがあります。「日本語を乱す」とか、「間違っている」と非難されます) |
38 |
原始的な固定した「科学の名を借りた信念」 |
現代的なダイナミックな「信念のような科学」 |
39 |
擬人観 (訳注 神・動植物などあらゆるものがその形・性質において人間に似ているとする考え方) |
非擬人観 |
40 |
言語と事実は違う構造をしている(訳注 「馥郁たる香りを放つバラのような女性」) |
言語と事実の構造は似ているべき(訳注 髪は黒々として、瞳は大きく、・・・) |
41 |
結果として不適切な評価をする |
適切な評価で試すことができる |
42 |
予測に不十分 |
予測するのに最大限の情報を与える |
43 |
無視 |
分からない言葉は未定義語である |
44 |
無視 |
言語の再帰性を認める(訳注 言葉は事物を定義するのみならず、言葉自体を定義できること。「北に向かって、右が東。東は北に向かって右。」) |
45 |
無視 |
言語の意味する序列の多様性(訳注 「しばしば」と「しょっちゅう」は、どちらのほうの頻度が高いのか?人によって、状況によって言葉の序列は変わります。) |
46 |
無視 |
共通理解で言葉の意味が変わること |
47 |
無視 |
推測表現を「表現」として考える |
48 |
無視 |
「頭の中のことを言葉にしなければならないという制約」を「環境」として考える |
49 |
無視 |
「頭の中のことに意味づけなければならないという制約」を「環境」として考える |
50 |
無視 |
頭の中のことに意味づけたり、評価したりするときに、「言語の構造」自体が意識下で働きかけている(訳注 英語のような主語を必要とする言語は、個別性、主体性がはっきりします。日本語やスペイン語のような主語を明示しない表現のある言語は違います。また、スペイン語は動詞が人称、時制で活発に変化します。日本語はいい加減です。だから、・・・) |
51 |
言葉を分解して細部にこだわり、言葉の「中に」意味を見いだそうとする |
言葉の細部にこだわらず、言葉の外側にある事実に基づき評価する |
52 |
時代遅れ |
現代的。 1941 年の・・・ |
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