健康保険施設に往診.(病院の態度 その3)

入所者の診察と処方の日.
 運ばれてきた患者さんは,車椅子に乗せられていますが,わたしの存在にも気づかず,口を開けて顔を右上へ向けたまま,話すこともしません.いわゆる寝たきりのカチカチ状態です.
看護師から報告.
「この方は3ヶ月前に脳梗塞発症しました.脳外科に入院し,退院しました.その4日後に発熱し内科受診して,嚥下性肺炎で入院しました.胃ろうを作って,昨日退院してきました.」
 
 「なんで,退院してすぐに誤嚥性肺炎になったかわかる?」と看護師に聞きました.答えられません.
 「この方は食べないんだよ.食べようとしないんだよ.そういう状態なんだよ.だから,口にご飯を入れても,すぐにはのみ込まない.のみ込めない.それなのに寮母さんが『食べさせないと痩せて叱られる』と思って次々と口に入れる.一度にたくさん入れるなという指導法の問題ではない.考え方の問題なんだ.食べたがらない人,食べられない人に,施設や介助者の都合で食べさせることは『介助』ではない.強制なんだ.それが誤嚥の原因なんだ(と思う.だって,脳外科入院中は誤嚥していないのだから,環境としての人の問題なのです.).この方は食べられなくなって亡くなる状態なんだ.心臓が悪くなって亡くなる人がいる.肝臓が悪くなって亡くなる人がいる.なぜ,食べなくなって亡くなってはいけないんだ.職員全てで考えるとよい.自分が食べたくなくなったときに,どうしてほしいのかを」
 もちろん,胃ろうを作る人にも,わたしは考えてほしいのです.若い人や急性期を扱う医療者は「生きることが大事」と思うのですが,動けなくなった食べられないお年寄りを見ていると,別の考え方をします(楽になるようにていねいに動かしてほしい.食べたいときには食べるのを手伝ってほしいetc).
 あああ,わたしは最期に入院は避けたいなぁぁぁぁ.