不具合をもつ人の車椅子(病院の態度 その4)

 ある日,施設に往診に行くと車椅子にのせられた方がいました.くも膜下出血の後遺症で,麻痺があります.認知能の低下も著明です.
 医療としての積極的な治療はありません.ただ,車椅子に座る姿が楽ではない.座るのさえ楽でないのに認知能の改善は望めません.座るのだけでも楽にしたい.
 「この車椅子はサイズが合っていません.障がい認定は受けていますか? 受けていない.それではまずその認定を申請してください.書類はわたしが書きます.」
 認定はすぐにはおりません.半年たっても施設往診時に認定の話が出てこないので,どうなっていると看護師に聞きました.「事務所で確認してきます」と飛んでいきました.
 保健師助産師看護師法という法律では,看護師の仕事は「1.医師の診療の手伝い,2.療養上の世話」となっています.車椅子に楽に座るのは療養上の世話そのものです.それなのに,なぜ車椅子の支給に必要な身障認定のことに注意をむけないのか!?

「1級の認定が4ヶ月前に降りていました」
カーッ,わたしの脳の血流が一気に増加しました.「馬っ鹿もん!!!この人の車椅子を作ろうとして,認定申請を出したのに結果が来ても知らせないとは,何を考えているんだ!!!」
 わたしはアンガーマネージメントファシリテーターの認定を受けています.それでも,怒りがメラメラメラ(アンガーマネージメントは怒るなとは教えない.怒りで狂うなという).
 ケアマネを呼んで聞くと,「通常1割負担になるので,家族が払えないと言って,車椅子を作るのをやめにしました」といいます.
 「わたしが書類を書きました.認定が降りた段階で報告しなさい.それから市役所に行って行政から全額支給を受ける制度がないか確認しなさい.諦める前に,ケアマネとしてできることを全てしなさい」と話しました.
 1時間後,ケアマネから「あの方は新年金法の対象なので,全額出ます」と連絡がありました.
 看護師,ケアマネ(そして彼らを監督する施設管理者)が自分の仕事を完遂していれば4ヶ月前には車椅子の製作指示を出せました.この方の4ヶ月の人生を無為にしました.
 「これはできない」と言う前に,「できる方法はないかを探る」ことができます.色んな方法を試すことができます.
 わたしは委託されて2週間に一回往診するだけの医師であり,管理者ではありません.
 
 他の業種はプロとしての仕事をやってくれて,わたしに楽させてほしい.
 他職種の監督業はやりたくない.
 医療・ケアには,何かが欠けています・・・・・・・「態度」だと思います.