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シャンソン

 哲学は人間を扱い、心理学は心を扱いますが、不思議なことに「音楽」について詳しく説明されません。

 どんな文化でも音楽があります。

 アンプや精巧な技術がなくとも、木をたたいてリズムを取り歌う人々がいます。

 人間のいるところ、音楽が必ずあるようです。


 実は私は子供のときから音楽を嫌いでした。

 クラスにはピアノの上手な女子が2人いました。

 その子達と同じくらい上手な男の子がいて、クラリネットの上手 な男子もいました。

 フルートのうまい男子もいて、こいつはその後、音楽大学に行き、スイスの交響楽団に入りました。

 わたしは縦笛を吹くことはできても、あ せるばかりで指が動かない。ついていけないから、吹くまねだけしていました。


trumpet ところが、ある日、歩いているとショーウィンドウの中でピカッと光るものがありました。

 見るとトランペットでした。

 「そうだ、子供のころ、ニニ・ロッソのトランペットをかっこいいと思ったことがある」と思い出しました。

 さっそく、買って帰って練習しました。

 まわりは、「40代半ばを過ぎて、また、変なこと、始めて」と見ていました。

 「上手になるには、毎日吹くことだ」と本に書いてありましたから、1年間、毎日吹いていましたが、上手になりません。

 ヤマハの音楽教室に通うことにしました。


 トランペットの山本先生は、アマチュアジャズバンドのリード・トランペッターでした。

 わたしは楽譜を見ても、リズムがつかめないし、自分の出している音 がドなのか、ソなのかもわからない、音感のない状態でした。

 根気強く指導してくれます。

 しかし、教本どおりには吹けません。

 ある日、「ジャズはアドリブが あるから面白いよ」と言われました。


 アドリブはバックにあわせて自分でメロディを作って演奏します。

 バックの演奏のコード進行にマッチする音を出せば、ハーモニーが生まれますし、いわゆる 不協和音を出すと、緊張が生まれます。

 これをテンションと呼びます。

 これはわたしにぴったり。

 つまり、どんな音を出そうと、ハーモニーかテンションになる のですから、「失敗することはない!」


 というわけで、ジャズを中心に教わることにしました。

 ヤマハの教本はあるのですが、それは無視。

 自分の好きな曲を決めて、練習してレッスンに行く。

 うまくできないところを、指導してもらう。

 自分で教材と単元を決めているようなものです。かってな生徒です。


 リズム感がありませんから、どうしてもリズムがわからないと、「今日はラッパを吹かないで、ソルフェージュ(歌)で教えてください」と、生徒のほうから注文を出す。うーん、理想的生徒です。

 4年間指導されて、何とか1曲、8小節だけアドリブをできるようになりました。

 8小節とはいえ、「アドリブができる」というのは、テーマと違うメロディ をそのときの気分に合わせて吹けるということです。

 これは、すごいことなのです。赤ん坊が言葉を覚えるのと同じです。
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