キネステティクだけでなく、心理学の観点も使えます。
左右が分かりづらいので、緑の人の左右は緑色で、黄色の人の左右は黄色で示します。
1. 黄色の人は、右手で手刀を打ち反撃します。緑の人は、その手刀を左手で受けます。 しかし、この手刀は相手を打ち据えるものではありません。緑の人の左上肢のマスをあげさせるための誘いなのです。 緑の人の「戦いたい」という「心」の欲求を満たしてあげる介助行為です。 左上肢のマスがあがると、胸郭のマスの左側が引かれて、上方に移動します。全体のバランスをとるために、緑の人の胸郭の右側が下方に移動します。 |
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2. 緑の人の左上肢が上方に移動したら、黄色の人は捕まれている左手を右下方に押します。 左上肢の動きに呼応していた緑の人の右上肢は、黄色の人の動きに助けられて、自分の体の前面を左下方に向かいます。 緑の人の右上肢は伸びていきます。気持ちよいでしょう。 |
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3. 黄色の人は緑の人の右手を両手で軽くつかみ、緑の人の右上肢をそのまま伸ばしてあげるように、自然に前に歩きます。 緑の人の右上肢をきれいに伸ばしてあげると、緑の人の右上肢のマスの動きに合わせて、胸郭、骨盤、右下肢のマスが動きます。結果的に緑の人の右上肢から、胸郭、骨盤、右下肢のマスがまっすぐに伸びます。 緑の人の「体」は伸びて、とても気持ちよいでしょう。もちろん、攻撃しようとした「心」は、このような伸びきった体勢をいやがるでしょうから、「心」は「体」を縮めようとします。 |
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4. 黄色の人は、緑の人が「右上肢をちぢめよう」とする動きに合わせて反転し、緑の人が「右肘を曲げよう」とする動きを助けます。 緑の人は黄色の人に「立ち向かおう」としていますから、抵抗します。 しかし、伸びきった体勢で抵抗しようとして、体が反ってしまい、力が入りません。 |
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5. 黄色の人は、緑の人の右手を床のほうに持っていってあげます。 緑の人の右上肢、頭、胸郭の「重さ」は、それぞれのマスにかかります。 マスがそれぞれの「重さ」を持っていて、安定する「体位」は「仰臥位」ですから、緑の人の「体」は仰臥位になります。 |
「四方投げ」は無理矢理、力でねじ伏せ手いるのではなく、攻撃してきた緑の人の右上肢というマスに動きの「刺激」を与えているだけです。
その「刺激」が緑の人の体のマスに順々に「動き」として伝わっていっています。
つまり、黄色の人が緑の人の「立位のまま、体を伸ばし、仰臥位になる」という体位変換を介助していることが「四方投げ」になります。
マスが順番に動いて、マスの間のツナギが十分に開いたときは、とても気持ちがよいものです。ですから、緑の人の体は黄色の人の動きに逆らいません。「体」にとって「縮む」ことは、つらいことだからです。
緑の人の「心」は「体」の意見に反して「体を縮めよう」とします。ここに攻撃側が負ける理由があります。
一般意味論の学習で理解したことは、言葉に意味はありません。ただ、この場合、「合気道」という言葉はその本質をうまく表しているのかもしれません。
このアニメーションを見てわかるとおり、黄色の人は緑の人の「体」に右手から刺激を与えて、全体にイメージを生じさせています。「こっちに動くと気持ちよいかもしれない」というイメージです。そのイメージを得た緑の人の体は、自然に動くのです。
このとき、緑の人と黄色の人はどちらかが動かしているのではなく、二人がいっしょに同じ感じを使って動きます。まさに「気が合って」いるのです。
わたしは合気道を習ったことはないのですが、このDVDを見ていて、そう感じたのでした。
上の「四方投げ」は、緑の人がつかんだときに、黄色の人が手刀を打ち、それに対して緑の人が左手を挙げるという動作をきっかけにして、「投げ」が始まっています。
緑の人の左手が挙がるという動作で、反対側の右手が下に伸びやすくなるのです。キネステティクで言うところの「スパイラルな動き」、フェルデンクライス・メソッドでいう「ユニラテラルな動き」を誘い出します。それが気持ちよさのもとになっています。
DVDの中に塩田剛三という達人のデモンストレーションが出てきます。
この人はすごい。 まさに自由です。
上の「四方投げ」は捕まれてから、手刀で相手の動きを誘い出しています。しかし、塩田剛三は、相手が自分に触れた瞬間に相手の動きを手伝っています。
自分が捕まれた瞬間、相手がつかもうとして動いていた「動きの方向」に力を足してあげるのです。すると、相手は当初予想した以上の動きをします。それが「投げ」になります。実際は「投げた」のではなく、「手伝ってあげた」のです。
上に述べた四方投げで言えば、黄色の人が左手を捕まれた瞬間、緑の人が手を伸ばしてきた経路の延長方向に動かしていることになります。
ですから、触れた瞬間に投げ飛ばされます。すごいです。チャンスがあったらぜひ見てください。
四方投げの「動き」を知りたくて真似してみました。「ふふふ、これはおもしろい」と思い、セミナーの時にアシスタントをしてくれるナースに試しました。このナースには以前、宴会でダンスを教えています。
「おもしろいことが起こるからね」と言って、わたしの手首をつかませてから、四方投げをすると・・・。
「あれっ!」
これは相手が出した声ではなく、わたしの声です。投げられないのです。なんと、そのナースはわたしが動くといっしょに回ってしまいます。「そうだ、これはダンスのスピンだ!」
ははは、考えたら、人間の動きに特殊なことがあるわけはありません。
攻撃する人の「体」は黄色の人の動きに従おうとするのに、「心」が反抗するから投げられます。
ダンスでは、パートナーはいつもリーダーに従いますから、最後までつきあいます。結果として、投げられずに1回転して立っているのです。
ですから、緑の人が「攻撃しよう」という「心」をすてて、「相手とともに動こう」とすれば、違うことが起こるでしょう。
「相手を攻撃する気はないのだから、背中を見せても良い」と思えば、2のところで、黄色の人とともに回ることができます。3のところから黄色の人の方に背中を向けて、1回転できます。それがダンスのスピンです。そうすれば、4の体勢にならないから倒されないかもしれません。
合気道は攻撃しないと言われます。なるほどねと思います。攻撃すると自らが転んでしまうというのが、人間の構造なのです。
みんなが、このような人間の構造に気づけば、戦うことはやめて平和になるでしょうに・・・。
もし、わたしが塩田剛三達人と戦うことになったら、遠くに見かけたときに逃げ出します。そうすれば、ケガしない、負けもしない。
もし、マズローが塩田剛三に会っていたら、きっと自己実現した人の例に加えたでしょう。